「国立西洋美術館」が世界遺産に登録された理由とは?

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2.歴史的建築物の観光

日本を代表する美術館といえば、2016年に世界遺産に登録された「国立西洋美術館」。
上野公園にどっしりと構え、灰色の落ち着いた雰囲気を出しており、美術館の正面には数々の銅像が飾られています。
この美術館は、西洋美術に関する作品を貯蔵し、公衆に対して幅広く知れ渡すため、1959年4月に発足しました。
それ以来、西洋美術に関する作品を対象に取り扱い、資料の収集、調査研究、保存修復などを行っています。
国立西洋美術館の設計者と言えばル・コルビュジエですが、そんな巨匠が日本に唯一残したこの建物について、コンセプトやこだわりなんかを書いていこうかと思います。これを見れば、なぜ世界遺産に登録されたのかが見えてきます。

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世界遺産に登録

2016年に、7ヵ国17資産ものル・コルビュジエの建築作品が、世界遺産に一括登録されました。
フランスに10件、スイスに2件、ドイツ、ベルギー、アルゼンチン、インド、そして日本にそれぞれ1件の建築が登録されており、3大陸にまたがって一括登録されるのは初めてのことでした。
その日本で登録された1件が国立西洋美術館なわけですが、ル・コルビュジエが唯一日本に建てたものであり、西洋の近代建築の要点を具体的に表現し、近代建築運動に大きく貢献したことが評価され、世界遺産に登録されることとなりました。

引用:【ル・コルビュジエ検定】知ってるようで知らない、巨匠の秘密。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS © 1945-2020 by Magazine House, Ltd. (Tokyo)

ル・コルビュジエ(1887-1965 本名 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリ)は、時計製造で有名なスイスのラ・ショー=ド=フォンで生まれました。ちなみに「ル・コルビュジエ」という名は、雑誌などに掲載するときのペンネームだそうです。本名のままだとちょっと長いですしね。。
フランスを中心に活躍をし、20世紀の建築・都市計画に大きな影響を与え、ル・コルビュジエの弟子である日本人建築家の坂倉準三、前川國男、吉阪隆正だけでなく、安藤忠雄や伊東豊雄などの巨匠にも影響を与えたとのことです。
美術家の建設にあたっては、ル・コルビュジエが手掛けたのはエスキスの段階までで、坂倉準三、前川國男、吉阪隆正が実施設計を行っていました。

坂倉準三は、新宿駅西口広場や小田急百貨店本店などを設計した人物。前川國男は、国立西洋美術館の手前にある東京文化会館や東京都美術館などを設計した人物、吉阪隆正は、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館や涸沢ヒュッテ新館などを設計した人物であり、3人とも日本を代表する建築家です。

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近代建築の手法を取り入れたコンセプト

国立西洋美術館は、当時では新しい近代建築の数々の手法を取り入れています。

メゾン・ドミノ

美術館には「メゾン・ドミノ」と呼ばれる手法を取り入れており、鉄筋コンクリート製の柱で床板を支え、階段で上下階をつなぐという単純な構造で建物を作る手法となります。

引用:国立西洋美術館パンフレット

これまでは石やレンガを積み上げて、壁によって建物の荷重を支えていたのですが、柱で床を支えることによって壁を固定せずに済みますので、自由な間取りをデザインすることが可能となります。
国立西洋美術館の本館は、柱を635cm間隔で、横方向に7本×縦方向7本、合計49本もの柱にて上の階の床板を支えています。

ちなみに昔は、ガラス張りがなく広々としたピロティとなっていたそうです。

近代建築の5つの要点

立西洋美術館では、近代建築の要点が明確に表現されています。その要点というのは以下の5つとなります。

引用:国立西洋美術館パンフレット

この考えをもとにし、美術館は設計されました。

無限成長美術館

美術館の一番の問題は、作品数が増え貯蔵スペースが足りなくなり、パンクしてしまうという問題がありました。
そこでル・コルビュジエは「無限成長美術館」をコンセプトに、貯蔵作品が増えても美術館自体を容易に増築出来るよう計画を立てていました。それはは巻き貝のように、以下のような画像のように周りを増築するイメージです。

ただ無限成長美術館と言いつつも、増築するためには敷地が必要となります。国立西洋美術館の場合は十分な敷地の広さはありませんでしたが、美術館本館の裏側に余裕があったため、そこに増築する形で計画が進行しました。

モデュロール

ル・コルビュジエは人間の身体に沿って、「モデュロール」と呼ばれる尺度を考案しました。男性の身長183cmを基準に、へそまでの高さ113cmの比が黄金比1.618:1になることと、113cmの2倍の男性が手を伸ばした高さである226cmを基準として、2種類の尺度を考案しています。
身長183cmを基準にするとは・・・。西洋の男性は身長が高いですねぇ。。

引用:国立西洋美術館パンフレット

この尺度を、天井や手すり、タイルなどの建築のあらゆる場所に、寸法を足したりして使うことで、建築に統一感やリズムが生まれてきます。

ちなみに美術館の外壁パネルですが、上に行くほど小さくなっています。
これもモデュロールを意識し、リズミカルにタイルの大きさを割り付け、建物自体を大きく見せるための工夫となります。

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ル・コルビュジエの展示室へのこだわり

本館 19世紀ホール

三角形のトップライトのところに立つ柱は、縦方向7本×横方向7本の中心、縦横ともに4本目に位置する柱です。その柱から4方向に組まれた梁が重厚感を出しています。このトップライトは、北向きに窓が開いており、やわらかな光が差し込むようになっています。
また柱と梁は、姫小松という木の型枠にコンクリートを流し込んで作られ、美しい木目となっており、ホールを彩っています。

過去には、スロープの上のトップライト(現在は人工光のみ)や、その横にある赤いシャッター部分からも自然光を取り入れていました。
ル・コルビュジエは自然光にこだわっており、あらゆることろから太陽の光を取り入れようとしていました。
ホールから2階に上がるスロープは、登るにつれ段々と景色が変わり、所々見え隠れする絵画や、三角形トップライトの見え方の変わり方など、空間の変化を楽しみながら移動することができます。

19世紀ホールはもともと、壁に絵画を描く計画をしていましたが、ル・コルビュジエからどのような絵を描くか、といった案が上がって来ず、最終的には白い壁で仕上がりました。本来であれば、以下の画像のように壁に絵画が描かれるイメージになっていた事だろうと思われます。

引用:国立西洋美術館パンフレット

本館 2階展示室

2階展示室は、天井の高低や、所々で途切れた壁の配置により、様々な空間の変化を楽しみながら巡回していきます。
天井が低く暗い閉鎖的な部分と、天井が高く明るく開放的な部分があるのですが、天井を低くしている部分は作品を落ち着いて見られるようにするためであり、天井を高くしている部分は離れたところから優雅に見られるようにするためです。

中3階の照明ギャラリーの部分は、屋上から取り入れた自然光と照明器具による人工光を、内部に取り入れるための回廊状の小部屋です。
昔は屋上から自然光を取り入れていたわけですが、時間帯や天気によって光の加減が左右され、また中に人が常に入って光の調整をしなければならない。さらに、中は非常に温度が高くなるため照明ギャラリーの中にずっといるのが大変とのことで、現在は人工光のみとなっています。

中3階のバルコニー状の小部屋は、会議室や小さな作品の展示空間として作られてのですが、階段幅が狭く、手すりが片方しかなく危ないため、現在は使われておりません。建築基準法では階段幅は75cm以上必要となりますが、見た感じ幅が足りなさそうです。(実際に計っていないので、あくまで目分量ですが・・・)

新館

美術館の新館部分はル・コルビュジエの弟子のひとり、前川國男が設計し増築しました。
新館の天井にある丸いトップライトからも、自然光を取り入れて光の加減を調整していましたが、調整装置の音がうるさく、光の強さが安定しなかったため、現在は人工光のみとなっています。
自然光を取り入れるために作ったものが、現在はほとんど人工光になっていて、なんだかもったいない気はしますが、機能的な事を考えると、やはり仕方がないのかなと思います。

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美術館を守る免震技術

1995年の阪神・淡路大震災にて震源地付近の美術館は被害を受け、それををきっかけに国立西洋美術館は耐震改修を実施する方向となりました。

当時の耐震補強技術は、耐震壁を追加したり、柱・梁の補強を行うのが一般的でしたが、ピロティに耐震壁を追加すると無限成長美術館のコンセプトが失われ、柱・梁を太く補強すると、モデュロールが損なわれてしまいます。
そこで「免震レトロフィット」と呼ばれる、既存の建物の基礎に免震装置を設置する技術が採用されました。この技術を採用したのは国立西洋美術館が日本初です。
具体的にどんな場所に、どのような装置を設置しているかと言いますと、19世紀ホールに置かれている美術館の断面模型で説明すると、丸で囲った部分に以下の写真のような積層ゴムを設置しています。

一部分に地下があったり、中央に吹き抜けがあったりと、複雑な構造をしていたため、綿密で高度な構造計算が必要でした。その解析の結果、免震レトロフィットにより地震による建物への揺れが大幅に軽減されることが確かめられました。
実際、2011年に発生した東日本大震災では、東京は震度5強を観測する地震となりましたが、建物および美術品はほとんど被害がありませんでした。
国立西洋美術館をはじめ、現在では多くの建物が免震レトロフィットを採用しています。

日本の建物が世界遺産に登録されると、海外の方が設計したとは言え、やはり日本人として誇りに思います。
日本を代表する建築家である安藤忠雄や丹下健三など、世界中に建築作品を残しており、それらの建築が世界遺産に登録されるのも夢ではないかもしれません。

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建築概要

本館

設計ル・コルビュジエ
監理坂倉準三、前川國男、吉阪隆正
文部省管理局教育施設部工営課(当時)
施工清水建設
敷地面積9,288㎡(新館部分含む)
建築面積1,587㎡
延床面積4,399㎡
展示室面積1,533㎡
階数地上3階、地下1階、塔屋1階
構造鉄筋コンクリート造
工期1958年3月~1959年3月

新館

設計・監理前川國男建築設計事務所
施工清水建設
敷地面積9,288㎡(本館部分含む)
建築面積1,480㎡
延床面積4,902㎡
展示室面積1,525㎡
収蔵庫面積676㎡
階数地上2階、地下2階
構造鉄筋コンクリート造
工期1977年8月~1979年5月31日
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ご利用案内・アクセス

開館時間9:30~17:30(金・土は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日月曜日(祝日の場合は翌日休館)
年末年始(12月28日~1月1日)
常設展観覧料一般 :500円(400円)
大学生:250円(200円)
※()内は団体料金(20名以上)
※高校生以下及び18歳未満、65歳以上
 心身に障害のある方及び付添者1名は無料
無料観覧日毎月の第2、第4土曜日
国際博物館の日(5月19日)
文化の日(11月3日)
電話03-5777-8600
住所東京都台東区上野公園7-7
アクセスJR線 上野駅 徒歩3分
京成本線 京成上野駅 徒歩8分


参考元:

国立西洋美術館 公式HP
・国立西洋美術館パンフレット

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