神保町にある西洋風の建物の「学士会館」は、ドラマ「半沢直樹」のロケ地として使われており、厳格で魅力的な建築となっています。内観はいろんな箇所にアールデコ風の装飾が施されており、見どころのある建築です。
学士会館は1928年に建てられ、ホテルやレストラン、会議室や結婚式場など、さまざまな施設が入った複合施設となります。これまで、ニ・二六事件の東京警備隊司令部が置かれたり、太平洋戦争時に高射機関銃陣地が置かれたりなど、日本の歴史を供に歩んだ会館です。
もともと学士会館は1923年9月1日に着工予定だったのですが、その日にちょうど関東大震災が起き、計画は延期となりました。この関東大震災を機に、当時では珍しかった鉄骨鉄筋コンクリート造で会館を建築し、耐震耐火の建物となり1928年に完成しました。
今回はそんな学士会館の建築を紹介します。
東京大学・日本野球発祥の地
学士会館の旧館の正面玄関の近くに、以下のような「東京大学発祥の地」 の石碑があります。
東京大学は1877年に創立されたのですが、この土地に法学部、理学部、文学部がかつて存在していました。そのため、この場所を日本最初の大学の地として、1991年に記念碑が建てられています。現在は本郷に移転しています。
また、日本野球発祥の地でもあり、敷地の脇に野球ボールを握った手の記念碑があります。
日本に初めて野球を伝えたのが、ホーレス・ウィルソン氏。もともとは教師としてアメリカから来日したのですが、授業のかたわら生徒達に野球を教えたのを機に、全国に野球が広まりました。
ホーレス・ウィルソン氏が野球殿堂入りをし、それを記念して「日本野球発祥の地」のモニュメントが2003年に建てられました。ボールには世界地図が描かれ、アメリカと日本をボールの縫い目で結ぶデザインになっており、野球の国際化を表現しています。
学士会館が建っているこの地は、このように歴史ある記念すべき土地となっています。
外観
学士会館の外観です。白山通り側に出ている4階建てのスクラッチタイルをまとった壁色の濃い部分が、1928年に竣工した高橋貞太郎氏設計の旧館であり、後方の5階建ての明るいタイルをまとった壁色の薄い部分が、1937年に増築した藤村朗氏設計の新館です。
旧館の総工費は約106万円。当時の1円は現在の5000円ほどの価値があったため、換算すると約53億円となります。
当時は装飾をふんだんに施された建築が流行していましたが、学士会館では装飾を簡略化し、厳格さのある外観です。高橋貞太郎氏は簡素質実な建築を目指して建てたそうです。
1階部分の外壁は白い石造タイルを使い、厳格ながらも、どこか明るい雰囲気のある外観となっています。2階から上の部分は、当時流行した縦方向に釘で引っ掻いたような溝を刻んだスクラッチタイルを使用しています。
旧館の正面玄関は、茶色いアーチ型の入口となっています。
入る前に気が引き締まる感じがしますね。このアーチには日ノ出石を使い、頂上部分にはオリーブをかたどったキーストーンを打ち込んでいます。日ノ出石は風化に強く、墓石にもよく使われています。
アーチの左右には厳格な大灯籠が建っています。この大灯籠は戦時中の金属供出によって一度失われてしまったのですが、2003年に復元しています。
アーチをくぐりドアを入ると、以下のような正面玄関に入ります。
この旧館正面玄関は、暗めな灰色の石造りとなり厳格な雰囲気が漂ってきます。天井には、さまざまなな植物をモチーフにした縁飾りが付いており、全体的に豪勢な感じとなっています。
新館の方は、総工費が約60万円。現在の価値に換算すると約30億円となります。
旧館を尊重して一歩後退し、5階部分は蛇腹で分節しています。新館はタイルの色を少し変えて旧館より明るくフラットなデザインとしています。新館も1階部分は白い石造タイル、2階以上はスクラッチタイルとしているので、いかに旧館を尊重しているのかが分かります。
廊下
こちらは1階廊下です。レンガ風タイルの壁に、赤い絨毯が敷かれた廊下は、高級感あふれる空間となっています。また、廊下の各所にある暖炉や観葉植物によって、味のある空間です。
当時の西洋建築と比べて割と装飾が少なく、全体的に落ち着いた雰囲気となっています。
こちらはトイレの出入口ですが、ちょっとしたアールデコ調のデザインが施されており、主張し過ぎず謙虚な感じに仕上がっています。
階段
まずは旧館の階段ホールですが、ここも装飾にこだわりが見えます。
階段ホールの天井は、中心の電灯から天井全体に向かって、矩形(くけい)に収められています。電灯のすぐ周辺の丸い装飾と、その外側の四角い装飾の間に換気グリルがあります。換気グリルをお洒落に見せる、このこだわりが良いですね。
階段ホールにはこのような人造石張りの十二角形の柱が建っており、石張りは頭が大きい釘である、鋲(びょう)で留められています。これは、オーストリア・ウィーンで流行ったセセッションスタイルの影響を受けたもであり、鋲をあえて強調させて石を張って仕上げたように見せるスタイルです。当時はそれが先鋭的でした。
もともと階段ホールは玄関だったこともあり、装飾にこだわってデザインされました。入口の装飾が美しいと、入ったときの期待感が高まります。
階段を上った先の踊り場にはソファが置かれ、くつろぐ事が出来ます。踊り場もまるでひとつの部屋のような空間になっています。
新館の階段の壁にも、このような装飾がされていてお洒落な雰囲気を作り出しています。新旧ともに階段にも赤い絨毯が敷かれ、高級感が溢れています。
201号室、休憩室などの各部屋
こちらは、201号室の前室となるロビーです。前室の時点から既に会議室のような、装飾にこだわった空間となっています。
壁の黒い板は腰羽目板といい、これを高い位置まで張られています。また、天井は石膏で作られた格天井となっています。この腰羽目板と格天井によって、格式の高い空間を形成しています。
2階は御客用として考えられていたため、格式を重視して設計されたそうです。
ちなみに上の画像の左側の扉は、201号室への入口となります。
こちらが201号室です。いつもは会合や宴会、結婚式の披露宴などで使われます。
201号室は、学士会館の中で建設当時の姿をよく残している部屋となります。
柱のない大空間を作るために、両サイドの柱はH型鋼で頑丈に作り、上の階からの荷重を支えています。
大窓から明るい日差しが入って部屋を明るく照らし、窓の反対側の4つの扉は配膳室につながっておりスムーズな給仕が可能となります。まさに宴会や披露宴に最適な空間となります。
こちらは部屋の奥に付けられた、オーケストラ用のバルコニーとなります。
天井隅の装飾は「持ち送り」という、石膏で作られたアカンサスの葉を模した装飾です。
アカンサスの葉は、西洋建築で最も一般的に使用された装飾です。
このワイングラスを並べたようなデザインのシャンデリアも、豪勢な空間を作り出すパーツになっています。
こちらは1階の休憩室です。ここの電灯も装飾にこだわりが見えます。壁はクリーム色に仕上げており、大窓からは光が降り注いでいます。全体的に、落ち着いて休められそうな雰囲気です。
2003年1月に、国の有形文化財に登録された学士会館。是非このような格式の高い場所で、宴会や結婚式を開いてみてはいかがでしょうか。
建築概要
名称 | 学士会館 |
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設計 | 旧館:高橋貞太郎(設計)、佐野利器(監修) 新館:藤村朗 |
施工 | 旧館:戸田組 新館:銭高組 |
敷地面積 | 3,399.99㎡ |
建築面積 | 1,839.30㎡ |
延床面積 | 9,337.47㎡ |
階数 | 地上5階、地下1階、塔屋2階 |
構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 |
工期 | 旧館:1926年6月〜1928年4月 新館:1936年4月〜1937年9月 |
ご利用案内・アクセス
電話 | 03-3292-5936(代表) |
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住所 | 東京都千代田区神田錦町3-28 |
アクセス | 都営三田線・新宿線 神保町駅 A9出口から徒歩1分 東京メトロ半蔵門線 神保町駅 A9出口から徒歩1分 東京メトロ東西線 竹橋駅 3A出口から徒歩5分 JR中央線・総武線 御茶ノ水駅 御茶ノ水橋口から徒歩15分 |
参考元:
・学士会館| 神田・錦町・神保町の結婚式、レストラン、ホテル、宴会
・学士会館 建築物語パンフレット