「東京都庭園美術館|旧朝香宮邸」の感動的な建築

02.近代建築
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かつて皇室・朝香宮家が暮らしていた「旧朝香宮邸」。現在は「東京都庭園美術館」として邸宅が公開されており、幾何学的なデザインがふんだんに施されていて、建築好きはもちろんのこと、それ以外の方も感動させられる建築になっています。

1922~1925年の間、朝香宮鳩彦王(あさかのみや やすひこおう)と允子妃(のぶこひ)はパリに滞在し、アール・デコのデザインに見せられて、自宅に取り入れました。
アール・デコは1910~1930年代にヨーロッパを席巻した装飾洋式で、幾何学的な装飾が特徴です。

設計は宮内省内匠寮(くないしょう ないしょうりょう)。皇室建築や儀式で使用する建築の設計監理を担当していた組織です。一部は、フランス人芸術家のアンリ・ラパン氏が内装デザインを手がけました。

戦後、朝香宮家が手放した後、外務大臣公邸から迎賓館、そして1983年には美術館として開館し、訪れた人々を魅了しています。2015年には国の重要文化財に指定されました。

今回はそんな東京都庭園美術館の建築を紹介します。

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外観

外観は清潔感のある白い建物であり、入口の周りには庭園が広がっています。緑いっぱいの庭園の中に旧朝香宮邸は佇んでいます。

入口は西洋建築ならではのアーチ型となっています。また、入口の両サイドには狛犬が座っています。

南側から見た様子です。テラスがある部分は大客室、丸く出ている部分は大食堂です。
訪れたお客様も庭園の緑を楽しめられるようになっています。

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1階

玄関

玄関から入ると、足元には大理石のモザイクタイルが張られています。宮内省内匠寮がデザインしています。魔法陣のような幾何学的模様が印象的な床です。

目の前には、ガラス工芸家・ルネ・ラリック氏によるガラスレリーフの扉があります。

大広間

大広間の天井は、格子縁の中に40個の半円球の照明が配置されており、大広間の中を明るく照らします。

マントルピースと呼ばれる装飾的な暖炉です。

壁や扉はウォールナット材で仕上げており、落ち着いた雰囲気を作り出しています。ウォールナット材は木肌が美しく、高級な家具工芸材としてよく使われています。

次室(つぎのま)

次室は、大広間から大客室へのつなぎの役割をした部屋になります。
天井は白漆喰の半円球ドーム形であり、中央にはアンリ・ラパン氏がデザインした香水塔が置かれています。天井と香水塔によって、落ち着いた神聖な空間を作り出しています。

香水塔はその名の通り、香水の香りを漂わせていました。もともとは水を流して噴水器として使う想定だったようです。香水の香りを漂わせてた時は、より気持ちの良い空間だったかと思います。

大客室

大客室はお客様を招き入れるだけあって、様々な装飾で彩られた部屋になります。
欄間(壁面の上部)には、アンリ・ラパン氏により森の中の庭園の情景が描かれています。また、柱はシコモール材という木材を使用しており、華やかながらも落ち着いた空間になっています。

シャンデリアは、玄関にあったガラスレリーフと同様、ルネ・ラリック氏が製作しています。花をモチーフに幾何学的模様を描き、きらびやかな演出をしているので、映えること間違いなしです。
また、天井の漆喰仕上げによるジグザグや円状のデザインともマッチしています。

こちらの扉は、風船を持つ人々などが描かれたエッチング・ガラス(彫刻ガラス。ガラスに砂等を空気圧で吹き付けて削ったもの)を嵌め込み、扉の上にはタンパン装飾と呼ばれる半円形の飾りが付けられています。鉄工芸家・レイモン・シュブ氏による作品です。

大理石で造られたマントルピースも、大客室を彩っています。

一流のデザイナーによって作られた様々な装飾に合わせて、宮内省内匠寮ではこちらのラジエーターカバー(暖房器具のカバー)のデザインをしています。

大食堂

前述の大客室とこの大食堂は、最も見応えのある場所と言っても良いのではないでしょうか。
この大食堂は、来客時の食事会に使用されていました。窓からは庭園が望めて、お客様を招き入れるにふさわしい場所だと思います。

壁は花などの植物、照明には果物、ラジエーターカバーには魚介のデザインが施されています。

果物のデザインが施されたこの照明器具もまた、ルネ・ラリック氏のデザインです。

側面に置かれた食器入れらしき家具も、果物などの華やかな装飾があります。
植物が施された壁は、石膏に銀灰色の塗装がされたものになります。

暖炉の上には、アンリ・ラパン氏によって赤いパーゴラと泉の絵画が描かれています。
この大食堂で食事をしたら、どんなものでも美味しくいただけそうな気がします。

小客室

小客室は、少人数の来客の際に使用された部屋になります。壁には、アンリ・ラパン氏による樹木と水の風景が描かれています。

落ち着いたデザインの暖炉の上には、3匹のペンギンが並んでおり癒やされます。

装飾が施されたラジエーターカバーは各部屋に置かれています。

第一応接室

第一応接室は、壁はスイスのサルブラ社製の緑のストライプ壁紙に、植物のデザインが施された家具が落ち着きのある空間を作っています。(写真が見ずらくてすみません。)

家具は宮内省内匠寮がデザインしており、製作は国内トップクラスの高級洋家具店であった寺尾商店が手がけています。

小食堂

小食堂は、朝香宮家が日々の食事に使用していました。他の部屋と違い、ここは和の空間に仕上げています。

床は寄木張りで、黒に近い色のローズウッドを中心に、ケヤキ材が施されています。
天井は、杉の柾板(まさいた)を使用しています。柾板は木の中心部分から取った木材であり、1本の木に対して1枚しか取れないため希少な材木です。

照明は、四方をガラスで飾りを付け、和風のデザインに仕上げています。
この西洋風の邸宅の中に、和風の部屋も取り入れているのはけっこう意外でした。

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階段

第1階段

旧朝香宮邸には階段が2つあり、そのうちの一つは大広間から上がる形になっています。

3種類の大理石が用いられており、階段のステップ(白)、腰壁(茶色)、手摺り(黒)に施されています。
手摺りには、ジグザグな形と、嵌め込まれたブロンズ製の金物がアール・デコの特徴を捉えています。

階段を上がった所には、花模様の照明柱があり、上がった先の2階広間の照明と相まって華やかな演出になっています。

壁はラフコートという凹凸の模様を付けた漆喰の壁になっています。コテなどにより模様を付けており、左官職人の匠の技を感じるデザインです。ラフコートは容易に模様付けが可能ながらも、亀裂や剥落がないのが特徴です。
シンプルに見える所にも、目をこらしてみると凝ったデザインが施されていることがあります。

第2階段

第2階段は、第1階段より少し奥まった場所にあります。
第1階段より控えめながらも、アール・デコ調のデザインをここにも取り入れています。

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2階

2階広間

第1階段を上がった先には、緑のラフコートの壁に、大きな窓が設置された明るい2階広間があります。
窓の下には造り付けのソファーがあり、朝香宮家が暮らしていた当時はピアノが置かれていたそうで、憩いの空間となっていました。

ラジエーターカバーには、青海波にカモメのデザインが施されています。日本の伝統模様であり、小食堂だけでなく、ここにも和のデザインがあります。

若宮寝室

若宮(皇太子殿下の息子)の寝室は、すっきりと落ち着いた空間になっています。半円に張り出した窓には、竣工当時のサッシがそのまま残されています。

スマートな空間でありながらも、照明や丸柱の付柱などの装飾が施されています。

合の間

若宮寝室と若宮居間の間にある部屋です。
天井は、白漆喰のヴォールト天井(かまぼこ型天井)に、土壁を模した壁面になっています。

この部屋も装飾は控えめで、すっきりと落ち着いた空間になっています。

若宮居間

若宮居間は、ステンドグラスによるペンダント照明が設定されており、天井は円形のデザインとなっています。

若宮居間も、若宮寝室と同じく飾り丸柱があり、全体的に落ち着いています。
また、この部屋は正面玄関の真上に位置しているので、車寄せの屋根をベランダにしています。

書斎

書斎は部屋の形が正方形になるのですが、四隅に飾り棚を設置することで円形のようになっています。書斎にも、飾り丸柱が設置されています。このような部屋でテレワークをしてみたいものです。

机は回転式なので、どの時間でも太陽の光を気にすることなく作業ができるので、なかなか便利な家具です。

書斎の隣には、このような書庫が併設されており、朝香宮家が使用していた当時は、たくさんの本が並べられていたのではないかと思います。

殿下居間

殿下居間は、天井がヴォールトになっているので広さを感じます。
この部屋にもまた、ヒノキ材で作られた丸柱の付柱があります。

壁紙やカーテン、ラジエーターカバーのデザインは噴水がモチーフとなっています。

付柱の上部には花のような金物が施され、壁紙と木部の境界には刺繍のようなものがあり、細かい所も目が離せません。

殿下寝室

殿下寝室は、他の部屋と比べると装飾を抑えており、寝室とするだけあって落ち着いています。
柱や扉にはクスノキが使われており、扉にクスノキの玉杢(たまもく)を装飾として使われています。玉杢とは、樹木のこぶのある面をスライスすると現れる同心円形の模様です。

照明も装飾を抑えたデザインとなっています。

第1浴室

第1浴室は、主に殿下が使用した浴室です。他に姫宮用(娘用)、若宮用(息子用)があったそうです。
床はモザイクタイルのアール・デコのデザイン。壁はフランス産の大理石を、左右対称の目となるように張るブックマッチ(石版の真ん中で切って本のように開いて張る)という技法で張られています。

天井の換気口のところには植物のデザインが施されています。

アール・デコの装飾が施された浴室では、気持ちよく入浴できたことかと思います。

妃殿下寝室

妃殿下寝室は、女性らしい空間になっています。

照明は、上下に移動できる布シェード付きです。

これらのラジエーターカバーは、朝香宮允子妃の描いた絵をもとにデザインされたそうです。

この部屋もまた華やかなポイントのデザインがあり、ゆっくりくつろげられそうな空間です。

妃殿下居間

妃殿下居間は、大きな鏡に重厚な暖炉、取り付け棚が特徴です。

低めのヴォールト天井には、ブドウのような5つの球型の照明があり存在感があります。

南側には半円形のバルコニーがあり、庭園を望めます。
床は、泰山タイル(工芸家・池田泰山氏による美術タイル)が敷き詰められており、お洒落なバルコニーに仕上がっています。

ベランダ

ベランダは、殿下、妃殿下の居間からのみ出入りできる夫婦専用となっており、庭園を一望できるとても明るい空間になっています。
床は、国産大理石の黒い銀星と白い薄雲が市松模様に敷かれています。

ベランダから見た庭園風景です。

ここにも青海波のデザインが施されたラジエーターカバーがありました。

北の間

北の間は、夏期の家族団らんの場として使用されていました。
床と腰壁にはタイルを敷き詰められ、大きな窓と天窓によって、外にいるかのような感覚になります。

柱はチーク材を浮造り(うづくり。木の表面のやわらかい部分を磨いてへこませ、木目を浮き上がらせる仕上げ)にして柾目(まさめ)を浮き立たせています。

姫宮寝室

姫宮寝室は、ブルーの水泡模様の壁に、床はケヤキ材を矢羽の形に寄木張りしているのが特徴です。
テーブルと椅子が置いてありますが、朝香宮家がいた頃は寝室として使われています。

照明はロウ石という柔らかくて半透明な石を使って、光をやわらげています。

姫宮寝室の前には、金平糖のようなステンドグラスの照明があり、お洒落な空間を作り出しています。

姫宮居間

姫宮居間は、サーモンピンクの大理石のマントルピースと、円形の鏡が女性らしい部屋を作り出しています。
壁紙は虹色の波形ストライプ模様であり、床は寝室と同じく矢羽の形に寄木張りをしています。ただ、床材はケヤキとカーリーメープルで仕上げています。

帽子を逆さにしたような照明に、天井には花の模様を施しています。

ちなみに、旧朝香宮邸にある照明器具は、全部でなんと36種類以上もあるそうです。

建物自体が美術品のようになっており、建築好きな方もそうでない方も、一度は訪れて損はない建築です。

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建築概要

設計設計者:宮内省内匠寮
主要内装デザイン:アンリ・ラパン
敷地面積34,765.02㎡
建築面積1,048.29㎡
延床面積2,100.47㎡
階数地上3階、地下1階
構造鉄筋コンクリート造
工期1933年
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ご利用案内・アクセス

開館時間10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日月曜日(祝日の場合は翌日休館)、年末年始
入館料展覧会によって異なります。
電話050-5541-8600
住所東京都港区白金台5-21-9
アクセス都営三田線・東京メトロ南北線 白金台駅 徒歩6分
JR線・東急目黒線 目黒駅 徒歩7分

※2021年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。


参考元:

東京都庭園美術館|TOKYO METROPOLITAN TEIEN ART MUSEUM
・甲斐みのり「歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ」,エクスナレッジ,2018年6月18日,67-74P
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