「国際子ども図書館」の建築の特徴を知ると大人も楽しめられる

01.現代建築
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日本唯一の国立の児童書専門図書館である「国際子ども図書館」は、子供向けの絵本や読み物、知識の本、地理や歴史に関する本が所蔵されており、また調べ物や研究のための資料室もある図書館です。そして、子供の本に関する展示会なども行われています。

そんな国際子ども図書館ですが、大きくレンガ棟とアーチ棟に分かれており、レンガ棟は大人も子供も共に楽しめる場所、アーチ棟は児童書専門図書館としての機能をもつ図書館となっています。

レンガ棟は1906~1929年にかけてでき、アーチ棟は2015~2016年にかけてリニューアルされました。

2002年にレンガ棟の改修工事が行われ、貴重なレンガ棟の建物が保存・復元されています。
改修工事の際にガラスボックスも作られ、2つのガラスボックスが、既存のレンガ棟を貫くイメージで増築されました。

今回はそんな国際子ども図書館の、建築の特徴や見どころを紹介します。

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貴重な建物であるレンガ棟

レンガ棟は、明治を代表する貴重なルネッサンス様式の建物であり、元々は帝国図書館として使われていました。
設計は久留正道氏・真水英夫氏らによるものですが、この2人は、鹿鳴館やニコライ堂などを設計したジョサイア・コンドル氏に師事していた建築家です。

実はこのレンガ棟、当初の計画では以下のような中庭を持つロの字形のプランでしたが、財政上の理由で、当初の計画の1/3に留まりました。

薄オレンジの部分が1906年竣工。緑の部分が1929年竣工となります。
これがすべて出来上がっていたら、相当大規模な図書館となっていましたね。帝国図書館という名前だけあって、壮大な計画をしていたようです。

外壁の明るい灰色部分は、白丁場石という安山岩の一種の石材を用い、レンガはベージュ色のフランス積みの化粧レンガを用いています。
フランス積みとは、以下のような一間隔ずつ縦横に積み上げる手法です。

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レンガ棟の保存・復元

2002年には保存・復元の改修工事が行われ、この工事には安藤忠雄氏が参画しています。
図書館内には、保存計画図や創建当時の写真が展示されています。

図書館内に展示されていた保存計画断面図です。
外壁は洗浄され、窓などの木製だった建具はアルミへ変え、腐食した銅飾りを復元しました。
各部屋の天井や壁については、漆喰の欠落した部分を復元しています。
また、照明なども復元・保存をしています。

この写真は、1906年の開設当時に「普通閲覧室」と呼ばれた部屋です。男性専用の閲覧室として利用されていました。
天井や壁は漆喰、腰壁の木部は欅が使用されていました。また、シャンデリアは古い写真より寸法を求めて復元しています。そして、電気・空調用配管は床下に、空調機は展示用家具に内蔵されました。
写真奥のコリント式の柱の間にある扉は、室内と書庫とをつなぐ出入口であり、小さな神殿を意味するエディキュールと呼ばれています。
エディキュールの扉の向こうは、書庫や分電盤設置場所でしたが、現在はレンガ棟建物の構造体に使われている、100年以上前の赤レンガを見ることが出来ます。
現在は「本のミュージアム」となっています。

この写真は、1906年の開設当時に「特別閲覧室」と呼ばれた部屋です。研究者のみが利用する閲覧室でした。
部屋の中央にある4本の柱は漆喰化粧柱。洋風でありながら、漆喰の下地には古い日本家屋でよく使われた竹小舞という工法が使われました。竹小舞とは、細く裂いた竹を一周ぐるりと貼り、その上から麻を被せる技法です。
この柱や梁の漆喰ですが、改修工事の際に一度取り壊し、鉄骨の柱梁に耐火処理を行い防火性能を向上させ、復元させています。
現在は「児童書ギャラリー」となっています。

こちらはホールとなり、高いアーチ型の天井構造による音響効果を生かした音楽会などが行われています。
天井部分の漆喰で作られた装飾や、背の高いアーチ型の窓が荘厳な空間を作り出し、音楽が心地よく響き渡りそうな部屋です。

こちらはラウンジとなり、2002年の改修工事の時に増設されました。もともと中庭に面していた外壁で、そのまま保存されています。
創建当時の外壁や開口部を、まじかに見ることが出来ます。

こちらは大階段となり、1階から3階まで吹き抜けています。
この場所にあるシャンデリア、欅の扉、階段手すりは、創建当時から使い続けられているものです。
階段の手すりには安全性を考慮して、強化ガラスの手すりが設けられています。
欅の扉や手すりの手の込んだデザインが、壮麗な大階段を作り出しています。

この図書館では、あらゆる場所にこだわりを持って復元されており、各部屋や廊下の天井や壁の漆喰材料は、明治時代と同じく、現場で貝灰や石灰、角又(つのまた)、すさ等を混合するという手間のかかる工法で工事を行っていました。これは、作った方法も保存しようとしたためです。
各部屋のシャンデリアは、東京電力で保管されていた現物の部品を採寸して復元しています。
各木製扉の塗料は、残存していた塗料の成分を分析し、当時のものとほぼ同じものを使用して復元しています。

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レンガ棟を地震から守る

レンガ棟は、関東大震災では倒壊を免れるほどの高い建築技術で作られていました。しかし、現在の耐震基準では構造耐力が不足しているとの事で、2002年の改修工事に構造補強されています。

明治時代に出来た建物を、保存および安全性を確保するため、免震レトロフィットを採用しました。免震レトロフィットとは、既存の建物の基礎に、免震装置を新しく設置する工法で、国立西洋美術館などに用いられた工法です。

図書館内に、免震レトロフィットについての説明や、実際に基礎に設置されている免震装置が展示されています。

免震レトロフィットのメリットは、建物に伝わる地震の力を1/3~1/5に低減し、既存の建物への補強を最小限にとどめる事が出来ます。古い組積レンガ造の建物の耐震性能を確保し、貴重な内装にダメージを与えないよう、免震レトロフィットを採用しています。

ちなみに、組積レンガ造に免震レトロフィットを採用したのは日本が初めてです。

こちらは断面図詳細になるのですが、これを見ると、免震層は空調を通せるように空間を開けており、防火や空調などの設備作業者の空間を確保しています。
空調は、床下の免震層を通ってきたダクトを、各部屋の家具に直結しています。

また屋根内部に注目すると、骨組みはトラス型、いわゆる三角形に組まれています。この工法のおかげで、関東大震災では地震力にうまく対応させて倒壊を免れたのだと思います。

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創建当時のコンセプトを満たしたアーチ棟

アーチ棟は、2015年に安藤忠雄氏の設計により作られました。

中庭を取り囲むように建てられ、全面ガラス張りのカーテンウォールとなっており、中庭を眺められるようになっています。

屋上にはソーラーパネルや緑地帯があり、雨水の再利用も行う、環境に優しい施設になっています。

帝国図書館の創建当時の設計コンセプトである、中庭と一体となった図書館環境を造るため、アーチ棟はレンガ棟とともに中庭を囲むような形で建設され、創建から100年以上経った今、コンセプトを満たしました。

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建築概要

レンガ棟

設計久留正道・真水英夫 他
敷地面積5,433.76㎡
建築面積1,929.58㎡
延床面積6,671.63㎡
構造鉄骨補強レンガ造
増築部は鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造
階数地下1階、地上3階
竣工1906年(一部)、1929年(全て)
収蔵能力約40万冊

アーチ棟

設計安藤忠雄
敷地面積7,735.31㎡
建築面積1,105.00㎡
延床面積6,185.67㎡
構造鉄骨鉄筋コンクリート造
階数地下2階、地上3階
工期2015年~2016年
収蔵能力約65万冊
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ご利用案内・アクセス

建物の歴史や見どころについて、ガイドツアーが火・木曜日の14:00に開催されています。詳細については公式サイトをご覧下さい。

開館時間9:30~17:00
休館日月曜日
祝日(5/5のこどもの日は開館)
第3水曜日
電話03-3827-2053(代表)
03-3827-2069(録音テープによる案内)
住所東京都台東区上野公園12-49
アクセス<電車>
 JR線 上野駅 公園口より徒歩10分
 JR線 鶯谷駅 徒歩11分
 東京メトロ日比谷線・銀座線 上野駅 7番出口より徒歩15分

<バス>
 都営バス上26系統 「谷中」下車 徒歩5分

※2020年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。


参考元:

・国際子ども図書館内 展示物
国立国会図書館国際子ども図書館 公式サイト

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