川崎市多摩区の生田緑地にある「日本民家園」は、日本各地に建っていた古民家を移築・再生して保存された、貴重な建築が軒を連ねる古民家村となっています。
25件もの再生された古民家が建ち並び、昔の日本の村風景が再現され、味わいのあるゆったりとした場所です。関東の村や信越の村などにエリア分けされている他、高倉や舞台などの建築もあります。
今回は数が多いため4回に分けてお送りします。本記事では信越の村の民家を紹介します。
その他のエリアについてはコチラから、是非あわせてお読み下さい。
信越の村
水車小屋
水車小屋は、もともと長野県長野市の旧芋生(いもい)村にあった小屋であり、飯縄(いいづな)山の豊富な水に恵まれた場所にありました。水車小屋が実に30軒近く存在したそうです。
屋根は寄棟造の茅葺、壁は水車がある部分は板張り、その他の壁は荒塗り仕上げとなっています。クルマヤと呼ばれ親しまれ、集落全体で小屋を管理して、一日ごとに交代で使用していました。
食料小屋のため、入口の戸には盗難防止用の鍵がついています。小屋の中には入れず、内部は出入口から鑑賞する形になります。
内部はこのように歯車が組まれ、そこに搗き臼(つきうす)が二基、粉挽き(こなひき)の臼が一基、画像右には、わらはたきの杵(きね)が設けられています。建築年は1800年代中頃ですが、この時代からこのような歯車が用いられた機械があったのですね。
水車小屋のあった集落では、主に米や麦を水車の力で餅などに加工して食べていました。
佐々木家住宅
佐々木家住宅は、もともと長野県佐久穂町に建っていた民家です。名主の家で、建物が長大で天井が高くなっています。
屋根は寄棟造の茅葺であり、中二階の採光のために屋根の東側がかぶと造となっています。(写真で撮ってなかったので、案内版をのせておきます。。)
普請帳などで詳細な記録が残っており、1731年に建築、1743年に千曲川の氾濫によって移築、1747年に座敷を増築している記録があります。
天井の高い広々とした土間に、中二階へ続く階段があります。中二階は村の寺小屋としても使われていました。
見上げると立派な梁や小屋梁などの構造体が見えます。佐々木家以外でも、構造体の美しい姿が眺められるので、様々な家の屋根裏を見てみると面白いです。
土間の隣には囲炉裏のある広々としたお勝手(台所)があります。その奥にある部屋は茶の間、更にその奥には中の間、そのまた更に奥には前座敷があります。ずっと奥まで見渡せられるので、この家の大きさがよく分かります。
佐々木家は代々豪農で、相当な広さの田畑を所有していました。また、時代ごとに養蚕や染物屋、建築土木の会社を起こしていた歴史もあります。実に10人以上の人々が暮らしていたのですが、仕事が忙しいためか、魚や肉をほとんど食べない質素な暮らしをしていました。こざという室内作業する部屋もあり、ずっと仕事にいそしんでいた歴史があります。
前座敷から見た様子です。この前座敷と、画像左の隣部屋の奥座敷が、増築された部分となります。また、客用の便所や風呂を備えていることもあって、かなり財産のあった家庭なのではないかと考えられています。
普段の暮らしは質素であるものの、祭りや行事、結婚式などでは、高級な料理で盛大に祝い、来客をもてなしていました。
江向家住宅
江向家住宅は、もともと富山県南砺(なんと)市の五箇山(ごかやま)地方に建っていた民家です。
屋根は切妻造の茅葺であり、急傾斜の合掌造となります。合掌造といえば岐阜県の白川郷が有名ですが、富山県の五箇山地方も、白川郷とともに合掌造で知られている地域です。2階にも出入口があり、雪が多く積もった日は、2階から出入りしていました。
入口は妻入(つまいり)と呼ばれる、棟と直角の面に出入口がある様式となっています。切妻造の屋根ではあるのですが、正面に茅葺の庇を付けた入母屋造風の屋根となっています。よく見ると、屋根と庇の境目に段差があるのが伺えます。
出入口近くには、右手に馬屋があります。
馬屋とは壁を隔てて土間があります。スペースがあるので、家事がしやすそうな場所です。
各部屋は田の字型の四間取りとなっています。こちらの囲炉裏のある部屋は、日常に家族が生活する場のおえ、その奥には寝室であるへやがあります。
「おえ」と「へや」の隣にも囲炉裏のある部屋があります。こちらは接客用のでいであり、前庭を見渡せられる部屋となります。その奥にある部屋はおまえと呼ばれる座敷です。人を呼ぶような部屋名ですね。
山田家住宅
山田家住宅は、もともと富山県南砺(なんと)市の桂集落に建っていた民家です。
屋根は切妻造の茅葺であり、合掌造の建物です。
山田家についても江向家と同じく、入口近くに馬屋があります。
土間の奥にある低い板の間は、うすなわという台所兼作業場があります。画像奥には、懸樋(かけひ)という水を取り入れた流しが設けられています。台所と作業場が一緒になっているパターンは珍しいですね。
山田家は、塩硝(えんしょう)という火薬の原料を床下で作っていたり、養蚕(ようさん)を生業としていました。
居室は田の字形に四部屋に分かれています。客間として使われたでえに、その奥の囲炉裏のある部屋は、日常生活の中心となっていたおいえがあります。
「でい」の隣には、座敷のおまえがあります。戸が閉まっていますが、右隣には仏壇、奥にはちょうだという寝室があります。
山田家があった桂集落は五箇山の最も奥地にあり、長い間日本の敗戦の情報が入らないほどの辺境地でした。傾斜地で田んぼはわずかしか出来なかったため、畑作が中心です。
現在、その桂集落はダムの底に沈んでいます。
野原家住宅
野原家住宅は、もともと富山県南砺(なんと)市に建っていました
屋根は江向家や山田家と同じく、切妻造の茅葺であり、合掌造となります。また切妻造ですが、江向家と同じく妻側に庇が付いて入母屋造風となっています。合掌造の屋根は村人が互いに協力し合い、30~40人がかりで1日で片面を葺き替えていました。
野原家は平入(ひらいり。棟と平行の面に出入口がある様式)なのですが、棟と直角の面にも細い出入口があります。これは、細い通路を通って外便所へ行くための出入口となります。
野原家もまた、入口のすぐ近くには馬屋があります。
馬屋の手前にぶら下がっている籠(かご)のようなものは、渡し籠という人力ロープウェイです。五箇山は川や谷が深く、川・谷を渡るのに使われていました。この簡素な籠を使って渡っていたとなると、高所恐怖所の人には厳しいですね。。
馬屋の奥には、台所兼作業場のにわがあります。作業場と兼用しているため、庭のように面積の広い台所です。
こちらは用心綱と呼ばれる鎖で、屋根の棟から常に下げてあり、雪下ろしで登り降りする際に使われてた命綱となります。
家の中央に大きな広間を設けた広間型三間取りとなっており、この広間はおえと呼ばれる日常生活の中心となっていた場所です。2種類の囲炉裏があり、画像左側には米つき場があります。広間の奥には座敷があります。
天井には、両端が曲がっている巨大なチョウナ梁がかかっており、大空間を実現しています。
こちらが座敷。中央には大木をくりぬいたようなバチが置いてあります。戸が閉まっていますが、座敷の奥には仏壇を安置した仏間があり、仏事の際には戸を開けて座敷とあわせて使われていました。
野原家は、田畑や養蚕、炭焼きを生業としており、養蚕については、2階や1階の板の間を使って行っていました。
山下家住宅
山下家住宅は、もともと岐阜県白川村に建っていました。
屋根は切妻造の茅葺となり、白川村に建っていただけあって、やはり合掌造の屋根となっています。3層にもなる屋根裏では養蚕が行われたり、食べ物や薪(たきぎ)などを貯蔵していました。
1800年代前期頃に建てられた山下家住宅は、1958年(昭和33年)に川崎駅近くに移築され、料亭として利用されていました。その後、1970年(昭和45年)に民家園に再移築されています。
ここは蕎麦屋となっており、入口近くにはメニューが掲げられ、民家の中で蕎麦を食べられます。日本民家園に訪れた際には是非、この名建築で昼食を召し上がっていただく事をおすすめします。
外観は、石置板葺の庇がかかっているのが特徴で、お店が混んでいる時は庇の下で待機しています。
出入口近くの囲炉裏がある部屋は台所となっています。台所からさらに奥に行くと、おもや、でい、おくのでい、ぶつまと呼ばれる居室があり、民家園の風景を眺めながら蕎麦を召し上がれる場所となっています。
日本民家園は、昔の日本の生活を目で見て触れることが出来る、貴重な建物が並んだ名所となります。昔の生活を体感するためにも、一度足を運んでみては。
その他のエリア
その他のエリアについても別記事でまとめています。是非あわせてお読み下さい。
ご利用案内・アクセス
開館時間 | 3~10月:9:30~17:00(入館は16:30まで) 11~2月:9:30~16:30(入館は16:00まで) |
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休館日 | 月曜日(祝日の場合は開園)、祝日の翌日(土日の場合は開園)、年末年始 |
入館料 | 大人 :500円(400円) 高・大学生:300円(240円) 中学生以下:無料 65歳以上 :300円(240円) ※()内は団体料金(20名以上) |
電話 | 044-922-2181 |
住所 | 神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-1 |
アクセス | <電車> 小田急線 向ヶ丘遊園駅 南口より徒歩13分 JR南武線 登戸駅 生田緑地口より徒歩25分 <バス> 向ヶ丘遊園駅から川崎市バス(溝口駅南口 行) 生田緑地入口 下車徒歩3分 向ヶ丘遊園駅から東急バス・川崎市バス(たまぷらーざ駅 行) 生田緑地入口 下車徒歩3分 |
※2021年7月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。
参考元: