2021年7月1日~9月5日にて、新国立競技場を中心に 9人のクリエイター達による作品が都内各所に設置された「パビリオン・トウキョウ2021」が実施されました。
会期に合わせて、ワタリウム美術館では各パビリオンの模型やイメージパースなどが展示されており、どのようなプロセスを経てパビリオンが作られたのかが紹介されていました。
今回はそんなワタリウム美術館にて開催されていたパビリオン・トウキョウ2021展の内容を紹介します。
茶室「五庵」(藤森照信)
茶室「五庵」を手がけたのは藤森照信氏。これまで高過庵や低過庵などの茶室や、ラコリーナ近江八幡、多治見市モザイクタイルミュージアムなどの緑豊かな建築を設計している建築史家です。
新国立競技場のすぐ近くに設置されており、基壇を芝で覆って、上部に茶室を作っています。茶室の大きな窓は、新国立競技場に向けて開いています。茶室の外壁は杉材の表面を焼いて炭化させた焼杉であり、炭化層によって板の劣化を防いで耐火性をもたせています。
丸太を切り出して茶室の模型を作るあたり、藤本氏らしさが出ています。高い位置に茶室を作るという考え方に合った模型です。
五庵のイメージが色鉛筆で描かれています。横に人間も描いているのでスケール感がつかみやすいですね。
こちらは茶室の外壁に使われた焼杉と、内部の天井にある模型です。その下には具体的な図面が展示され、どんなスケールでどんな材料を使うかが記載されています。
茶室内部にあった和紙で作られた照明も展示されていました。
水明(妹島和世)
水明を手がけたのは妹島和世氏。建物内外を繋げた公園のような建築を作っており、代表作としては21世紀美術館(SANAAとして設計)、すみだ北斎美術館などがあります。
水明は、新橋にある浜離宮恩賜庭園の中に作られており、歴史的な庭園風景と周囲の現代的な高層ビルの風景が共存する庭園です。遠目で見ると水の流れが止まったように見えますが、近くで見るとゆっくりと流れています。これは、過去、現在、未来のつながりを表しています。タイトルである水明は、水が日や月の光で美しく輝く様子のことであり、綺麗な水が流れています。また、曲面になっているのは、平安時代の庭園にあった水路である曲水をイメージしています。
こちらの画像上は具体的なスケールが描かれた平面図、画像下は水明の配置図です。浜離宮恩賜庭園には池や川のような水場が多くありますが、そこに新たに水場が作られた形です。
Cloud pavillion(藤本壮介)
Cloud pavillionを手がけたのは藤本壮介氏。ユニクロパークや白井屋ホテル、アンスティチュ・フランセ東京の増築などを手がけている建築家です。
風景が全く異なる代々木公園と高輪ゲートウェイ駅の2ヶ所に設置され、それぞれ違った表情を見せています。藤本氏は、雲は世界の大屋根のような存在であり、全てを包み込む建築であると語っており、全く異なる場所でも、みんな包み込んでしまうというメッセージを持たせています。
こちらはパビリオンの模型です。基準線が書かれており、どのように組み合わせるかが考慮されています。
こちらはパビリオンのエスキス(イメージを書き出したもの)です。この時点では自然な雲の形で書かれており、後にブドウのような形に固まっていきます。
こちらが具体的に形を決めていく段階の図面です。スケールや作り方などが詰められています。
Global Bowl(平田晃久)
Global Bowlを手がけたのは平田晃久氏。伊東豊雄建築設計事務所の出身者であり、カプセルホテルのナインアワーズをはじめ、Bloomberg Pavilion、Tree-ness House、太田市美術館・図書館などを手がけている建築家です。
国際連合大学前に作られたお椀形のGlobal Bowlは孔だらけになっており、通り抜けたり座ったりすることが出来る、子供の遊び場のようなパビリオンです。閉塞空間を外部と繋げるように作られています。
こちらはパビリオンのイメージ図。パビリオンの中で人々が遊ぶ風景を描いています。
日本の最新技術である三次元カットをした木材の一部です。木材を一度、集成材としてからカットを行っています。
大きな紙で描かれたイメージ図の他に、ボールに国旗が集まっている様子など、様々なイメージが作られています。
木陰雲(石上純也)
木陰雲(こかげぐも)を手がけたのは石上純也氏。神奈川工科大学のKAIT工房やKAIT広場、アート・ビオトープ那須の水庭など、特徴的な環境を構成する建築家です。
1927年(昭和2年)に建てられたkudan house 旧山口萬吉邸の庭に、焼杉による木造の柱と屋根をかけ、夏の強い日差しを遮り、涼しげな空間が作られています。旧山口萬吉邸は築90年を超える建物であるため、木陰雲も古さを持たせるように計画されました。黒い屋根は、庭にもともと植えられていた樹木をよけて雲のような形を作り、日差しを遮って木漏れ日のような光を庭に降り注がせる他、邸宅が建てられた当時にはまだ存在していなかった周辺の高層ビルを隠す役割も担っています。
こちらはパビリオンの配置図です。屋根は、模型や実物だけを見るとランダムに穴が開けられたように見えますが、もともと植えられていた庭園の樹木をよけて、周囲の高層ビルを隠し、夏の強い日差しを遮って木漏れ日を落とすように、緻密に計算されています。
こちらはパビリオンのイメージ図です。ビオトープ(野生動植物の安定した生息地)のようなイメージになっています。
屋根で使われた焼杉のモックアップです。切り出された杉の状態から、焼いて炭化させたプロセスが表現されています。
ストリートガーデンシアター(藤原徹平)
ストリートガーデンシアターを手がけたのは藤原徹平氏。隈研吾建築都市設計事務所の出身者であり、クルックフィールズ、那須塩原市まちなか交流センター くるる、稲村の森の家などを手がけています。
当初、劇場のような道をコンセプトとしてパビリオンを計画していましたが、新型コロナウイルス完成拡大による世界情勢の急激な変化によって計画を一新し、植物と人のための劇場をコンセプトとして計画が進行しました。
こちらはパビリオンのイメージ図です。岡本太郎氏の「こどもの樹」を囲うようにパビリオンが設置されています。
こちらはパビリオンに使われた実物大の「植木梁」と呼ばれる構造体です。実際のパビリオンでは花や野菜などの植木も設置されています。
こちらはパビリオンのエスキスです。
エスキスの状態から具体的な形にするための図面も展示されています。
東京城(会田誠)
東京城を手がけたのは会田誠氏。彫刻、パフォーマンス、映像、小説、漫画など多岐にわたる活動をしています。
2つの城は、低価格の割に頑丈な素材である段ボールとブルーシートを使って作られており、簡単に挫けない人間の強さを示しています。同時に、高価な素材を使う現代彫刻への批評性も含まれています。また、東京から被災地へのエールと共に、東京にいつか来ると言われている災害への覚悟も示されています。
パビリオンの実物は、段ボールおよびブルーシートで覆われていますが、展示された模型では骨組となっています。
こちらは東京城のパースです。
先ほどのパースから少し具体的な形になったイメージ図です。
こちらは配置図と断面図。具体的な骨組などのスケールが描かれています。
クリエイター達が創作したパビリオンは、鑑賞していくと様々な事を考えさせられる、そんな作品群となっています。
各パビリオンの実物作品を一挙紹介
別記事でパビリオン・トウキョウ2021の実物作品を紹介していますので、是非合わせてご覧下さい。
参考元: