「旧小坂家住宅」は建築好きなら訪れて損はない住宅

02.近代建築
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岡本静嘉堂緑地の近くの自然が豊富な場所に、広大な庭園を持つ「旧小坂家住宅」は、和洋折衷の木造建築となっており、入場無料で見学でき、建築好きなら訪れて損はない住宅となっています。

1937年に、衆議院議員などを歴任した小坂順造氏が別邸として世田谷の台地に建てたものであり、戦時中に小坂家の本宅が空襲で焼けてしまった際に、戦後1年程までこの別邸で生活していました。旧小坂家住宅は広大な庭園をもっており、庭園の中にあった茶室には一時期、画家の横山大観氏が住んでいました。

今回はそんな旧小坂家住宅の建築を紹介します。

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建物の概要

旧小坂家住宅は台地上に建てられ、建築された当時は木が生い茂り、街並から離れた森の中にある住宅だったようです。戦時中に空襲の被害に遭わなかったくらいなので、周りは民家が無い場所だったかと思います。

旧小坂家住宅外観

木造平屋建ての棟と、内倉と、2階建の棟とが、渡り廊下で結ばれた形式であり、雁行型(がんこうがた)の配置となっています。雁行型とは、各棟の間取りをずらして配置する形式のことです。

旧小坂家住宅の間取り

屋根については、玄関や居間、茶の間などがある平屋部分は入母屋屋根、寝室などがある2階建部分は切妻屋根となっています。

旧小坂家住宅外観

こちらは玄関とは反対側から見た様子で、寝室などがある2階建部分となります。

外観は完全に和風住宅なのですが、内観は部屋によって内装デザインを変えており、和と洋が共存したいわゆる和洋折衷な住宅となっています。

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内観

玄関

旧小坂家住宅玄関
旧小坂家住宅玄関の天井

玄関は古民家のように土間となっており、天井は梁や小屋束などの骨組が見えています。この柱や梁に使われた木材は、奥多摩の名主宅より譲り受けたものです。

瓦葺きの住宅であるものの、茅葺きの古民家のような趣向を取り入れています。

居間・茶の間

旧小坂家住宅の居間

居間12畳半の広さがあり、素朴な意匠の床の間と書院があります。床の間には立派なミズキが置かれていました。

旧小坂家住宅の居間と茶の間

居間の隣にある茶の間10畳あり、居間と合わせると、とても広々とした空間になります。柱は杉、壁は聚楽(じゅらく)土仕上げとなっており、落ち着いた和の空間となっています。聚楽土は、京都の秀吉の城・聚楽第あたりで取れる土です。

旧小坂家住宅の居間の欄間

居間と茶の間の境、欄間(長押と天井の間の部分)には、桐の板に桐模様を刻んだ通し欄間があり、当時の匠の技術を感じます。

入側

旧小坂家住宅の縁側

入側はいわゆる縁側となります。上部窓の上に丸太が端から端まで渡っていますが、これは縁桁(えんげた)といわれる部位で、10.6mある京都北山杉の磨き丸太となります。

入側は居間・茶の間に隣接してL字型に位置しており、庭園が望める気持ちの良い空間になっています。

茶室

旧小坂家住宅の茶室

茶室は6畳の小スペースとなっており、数寄屋建築のような質素な部屋になっています。

天井下の壁の一部に化粧板が張られ、その下に略式の床の間である織部床(おりべどこ)が設置され、ちょっとした生け花が置かれています。天井はガマとうい植物の茎、梁は檜の丸太で作られています。障子の外は玄関となっており、お客様を直接、茶室に招き入れられるような間取りになっています。

旧小坂家住宅の茶室

全体的に飾らない質素な意匠が、詫び寂びのある空間を作り出しています。

書斎

旧小坂家住宅の書斎

書斎は、約15畳の広さとなっており、太い柱や梁、壁上部は黒壁、壁下部はなた削りという手法の荒々しい模様など、山小屋風の内装に仕上がっています。

旧小坂家住宅の書斎の暖炉

厳格なマントルピース(装飾された暖炉)が設置され、その上にはかつて仏像が置かれていました。仏像を置くのに相応しいきらびやかな場所ですね。

旧小坂家住宅の書斎の床

床は寄木張りのフローリングになっています。

書斎の内装は全体的に荒々しく、他の部屋とは違った雰囲気があり、居間や茶室からここに来ると、内装のギャップに少し驚かされます。

脱衣所・浴室

旧小坂家住宅の脱衣所
旧小坂家住宅の浴室

脱衣所・浴室は、下部はタイル壁、上部は漆喰仕上げになっています。昭和レトロの雰囲気があり、どこか懐かしさを感じます。

内倉・渡り廊下

旧小坂家住宅の内倉入口

内倉の入口と、寝室棟に続く渡り廊下です。内倉は2階建で、扉は鉄製の防火扉となっており、大事はものは火事で燃えたり盗まれたりしないよう、厳重な感じの扉となっています。

旧小坂家住宅の渡り廊下

扉の隣には古い冷蔵庫らしき家電が置かれていました。

更衣室

旧小坂家住宅の更衣室

更衣室は、片側に服がたくさん掛けられそうな長いハンガーパイプが設置されています。

旧小坂家住宅の更衣室

もう片側には化粧台やタンス、ミシンなどが置かれています。どの家具も昭和レトロなデザインであり、木の暖かみがある家具です。

寝室

旧小坂家住宅の寝室

寝室18畳の洋室となっており、お洒落な照明器具やマントルピース(装飾された暖炉)が部屋を華やかにします。

旧小坂家住宅の寝室

壁は、扉の高さくらいまで木製の格式高いデザインとしています。床は一面に絨毯が敷かれ、落ち着いて睡眠出来そうです。

旧小坂家住宅の寝室の照明

天井は漆喰仕上げとなっており、照明器具の付け根の周りには円形に飾りが施されています。

旧小坂家住宅の寝室の暖炉

こちらのマントルピースは、書斎のものとは打って変わってお洒落に仕上がっています。

ベランダー(サンルーム)

旧小坂家住宅のベランダー(サンルーム)

ベランダー(サンルーム)は寝室の隣にあり、ゆっくり座りながら庭園を眺められる部屋です。ここも寝室に合わせて洋風にしています。こんな場所で紅茶をすすりたいものです。

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広大な庭園

旧小坂家住宅庭園マップ

旧小坂家住宅は広大な庭園があり、かつてそこには茶室がありました。

旧小坂家住宅庭園入口

住宅からはこの門をくぐり、庭園に向かいます。

旧小坂家住宅庭園

敷地は国分寺崖線上にあり、約半分は傾斜地となっています。この崖線の傾斜を利用して、回遊式庭園が作られています。

かつて建っていた茶室には、画家の横山大観氏が住んでいました。空襲が激しくなるのを案じ、知り合いだった小坂氏にお願いして、1945年3月9日に本宅からこの場所に移り住みました。その翌日の10日、空襲により本宅は焼けてしまったそうです。茶室にはお風呂が無く、崖の上にある旧小坂家住宅まで風呂をもらいに行っていたエピソードがあります。

旧小坂家住宅庭園

現在は茶室は残っておらず、このように広場だけとなっています。

旧小坂家住宅庭園

庭園内には湧水が流れています。

旧小坂家住宅庭園

竹林も数多く見られました。

傾斜があるせいか、家の庭というよりかは山の中のような庭園です。横山大観氏はこの場所にあった茶室に3ヶ月ほど住んでいました。自然の厳しさと心地よさを満喫したことかと思います。

周辺には別邸建築が点在していたそうですが、現存しているのは旧小坂住宅の1棟のみです。歴史的文化遺産に指定され、世田谷区の重要な名所となっています。

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建築概要

敷地面積9,466.25㎡
建築面積322.2㎡
延床面積377.5㎡
階数地上1階(一部2階建)
構造木造
工期1937年
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ご利用案内・アクセス

開館時間9:30~16:30
休館日月曜日、年末年始
入館料無料
電話03-3709-5471
住所東京都世田谷区瀬田4-41
アクセス<電車>
 東急田園都市線 二子玉川駅 徒歩20分
<バス>
 二子玉川駅から東急バス(二子玉川駅行) 玉川病院 下車徒歩2分
 二子玉川駅から東急バス(成城学園前駅行) 静嘉堂文庫 下車徒歩5分

※2021年6月現在の情報です。最新の情報は世田谷区ホームページでご確認下さい。


参考元:

世田谷区ホームページ
雁行型 とは | SUUMO住宅用語大辞典

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