築地の街に一際目を引く見た目の寺院「築地本願寺」があり、日本では珍しくインドの建築様式を取り入れた建物です。結婚式やパイプオルガンコンサートなど、様々な用途に使われています。
本堂の設計は伊東忠太氏。平安神宮などを手がけている建築家です。
以前の本堂は木造でしたが、1923年の関東大震災で焼失し、1934年に現在の本堂が完成しました。
インドを始め、世界各国の建築様式を取り入れ、独自の意匠を確立しています。
今回はそんな築地本願寺の建築を紹介します。
外観
正面の門を入ると、広大な敷地の奥に特徴的な外観の本堂が真っ正面に見えます。本堂のデザインは、仏教の発祥地であるインドの建築様式を、設計者の伊東忠太氏が独自の解釈で取り入れているそうです。
最上部には、インドのタージマハルを思い起こさせる円形フォルムの屋根が乗せられており、この時点でこの建築の壮大さを感じます。
円形の屋根の断面(?)には、蓮の花のレリーフがあり、その蓮に合わせて豪勢な意匠が周囲を取り囲みます。この円形の破風(はふ。屋根の側面部分)の自己主張が強く、かなり独創的です。
その手前にも独特なデザインの円形屋根があります。こちらは格子を曲げたような意匠となっており、球体のようにも見えます。
本堂の外観には各箇所に花崗岩が用いられ、味のある外壁を作り出しています。
入口前の列柱や、外壁の付柱など、近代建築らしさはあるものの、他では見たことない独自のデザインの柱頭です。
その他の近代建築では通常、コリント式やイオニア式など、植物のレリーフが柱頭に彩られますが、築地本願寺の場合は、四角いオブジェクトや蓮の花が刻印されており、独自路線を走っています。
窓の形も珍しいデザインであり、窓枠上部が特徴的な曲線を描いています。
入口前の柱の装飾には、エジプトの古代壁画のように花の絵が彫られていました。
階段の手すりにも独特の曲線が描かれており、踊り場の部分には塔のようなデザインが施されています。
本堂は左右対称に翼部がのびており、そこにも塔屋および入口があります。この入口もまた、中央の屋根に合わせるように蓮の花がデザインされた円形屋根があります。
屋根を近くで見るとやはり壮麗であり迫力を感じます。
こちらは敷地の入口にある三門門柱です。この柱も本堂のデザインに合わせて、インド風のデザインが施されています。
築地本願寺は2011年に国の重要文化財に指定されているのですが、本堂と一緒に、この門柱と外周の大谷石の石塀も文化財に指定されました。
本堂内観
続いては本堂です。大本堂や内陣などの迫力あるデザインに圧倒されました。
まず本堂の入口を入ると、青い扉の頭にはステンドグラスがあります。
ステンドグラスの形はインド風であり、草花の絵があしらわれています。
また両側の柱や、扉の手前の青銅のような照明も、日本の建築では見慣れないデザインです。
内部は寺院らしい空間であり、伝統的な浄土真宗の本堂となっています。
鉄筋鉄骨コンクリート構造なので、柱スパンの広い大空間を形成しています。
照明もかなり壮麗なデザインであり、大本堂の大空間を豪勢に彩っています。
白い柱・梁の上には、神社仏閣建築でおなじみの木組みがあります。一般的には、この木組みが屋根を支える完全な構造体となるのですが、この本堂の場合は鉄筋鉄骨コンクリートが構造体となるので、この木組みは意匠的な役割になります。
内陣には、中央正面に本尊阿弥陀如来が安置しており、全体的にこれでもかと言うくらいの金が塗装されています。柱や長押(なげし。金の横架材部分)のみならず、欄間(らんま。長押と天井の間の部分)に施された草花や、その上の仏様も、金に塗られています。
上部の桐の葉などの意匠も、これでもかと言うくらい描かれており、匠の技術力の高さを感じます。
大本堂の周辺は、西洋建築のような空間になっています。床が白と黒の市松模様なのが、より洋風感を出しています。
大本堂の背後には、寺院建築では珍しくパイプオルガンが置いてあります。1970年に仏教音楽の普及を願い、寄贈されたものであり、結婚式やコンサートなどで使われているようです。
日本の寺院では、ここまで海外の文化を取り入れている所は見たことがなく、驚きの連続です。当時の宗主である大谷光瑞氏の懐の深さを感じます。
動物の彫刻
大本堂と入口の間の、廣間というスペースに階段があり、そこには数多くの動物の彫刻が置かれています。
これらの像も築地本願寺の見どころの一つとなっており、寺院の中には全13種もの動物像が置かれています。各所の動物像を探してみるのもまた一興かと思います。動物像を設置したのは、動物好きである設計者の伊東忠太氏です。
階段室の大理石で出来た壁と手すりが、重厚な空間を作っています。また、手すりには黒い鋳鉄らしきもので蓮の花の意匠を施しています。
創建当時の宗主である大谷光瑞氏はシルクロードを旅してきており、設計者の伊東忠太氏もシルクロードを旅しています。この旅がきっかけで2人は出会い、現在の築地本願寺を建設する運びとなりました。
大谷光瑞氏が海外文化への理解が深い人物であったとの事で、このような海外の様式をふんだんに取り入れたインパクトのある建築が実現しています。
内観にもこれだけの豪勢な装飾が施され、工事費用もどれだけかかったのか気になるところ。実際に足を運んで鑑賞してみると、装飾の迫力に圧倒されます。
合同墓
本堂の向かい側には、合同墓という円柱形の建物があります。この建物も見どころだと思いますので、紹介いたします。
合同墓は、個別にお墓を持つのが難しい人などのために存在しています。
設計は三菱地所設計。三菱地所を見に行こうという事で、築地本願寺に訪れた際には、合同墓も見ていただければと思います。
中には阿弥陀如来が安置されており、間接照明にて厳かな雰囲気を作り出しています。その真上には天窓があり、真っ正面から見ると、ちょうど本堂の屋根が見えます。
天井の木組みが特徴的であり、暖かみがあります。静寂な空間であり、安らかに眠れそうな気がします。
建築概要
本堂
設計 | 伊東忠太 |
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敷地面積 | 19,526㎡ |
建築面積 | 3,149㎡ |
階数 | 地上2階、地下1階 |
構造 | 鉄筋鉄骨コンクリート造 |
工期 | 1934年 |
合同墓
設計 | 三菱地所設計 |
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敷地面積 | 19,526㎡ |
延床面積 | 353㎡ |
階数 | 地上1階、地下1階 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 |
工期 | 2017年 |
ご利用案内・アクセス
開館時間 | 6:00〜16:00 |
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電話 | 03-3541-1131(代表) |
住所 | 東京都中央区築地3-15-1 |
アクセス | 東京メトロ日比谷線 築地駅 出口1直結 東京メトロ有楽町線 新富町駅 出口4より徒歩5分 都営浅草線 東銀座駅 出口5より徒歩5分 都営大江戸線 築地市場駅 出口A1より徒歩5分 |
※2021年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。
参考元:
・築地本願寺 公式サイト
・松田力「東京建築さんぽマップ」,エクスナレッジ,2016年1月1日,23P
・築地本願寺を見る – 東京建築散歩
・築地本願寺境内整備|PROJECT|株式会社 三菱地所設計
・築地本願寺本堂 文化遺産オンライン