サザエさんの原作者・長谷川町子が暮らしていた、世田谷区・桜新町に「長谷川町子美術館」と「長谷川町子記念館」があり、また、その近くにはサザエさん通りやサザエさん公園といった場所もあり、桜新町はサザエさんの街と言えるほど、一色に染まっています。
1985年にオープンした長谷川町子美術館の設計は鹿島建設。その後、新しく2020年にオープンした長谷川町子記念館の設計は伊佐ホームズが手がけています。
伊佐ホームズを経営する伊佐家は、サザエさんに出てくる伊佐坂先生の名前のモデルになっています。
今回はそんな長谷川町子美術館および記念館の建築を紹介します。
サザエさん通り
東急田園都市線・桜新町駅を降りると、サザエさん一家の銅像が並んでおり、訪れた人々を出迎えてくれます。
桜新町駅から長谷川町子美術館・記念館へ続く道には、サザエさん通りという名の商店街があり、ビルの壁など、サザエさんの絵がそこらじゅうに描かれています。
スピーカーからはサザエさんのテーマソングが流れるなど、サザエさん一色に染まった商店街となっています。
桜新町駅の発車メロディーはもはや、サザエさんのテーマソングを流しても良いのではないかと思うほど、たくさんの絵が描かれています。
サザエさん通りをしばらく進むと道が二手に分かれており、サザエさんが、美術館はこちらですと案内してくれています。
長谷川町子美術館
美術館は、漫画で得た収益によって美術品などのコレクションを展示するため、姉の毬子と共に1985年11月3日に長谷川美術館をオープンしました。当初は、コレクションしたものを展示するだけで、長谷川町子自身の作品を展示することは考えていませんでしたが、ファンから多くの要望が寄せられたため、美術館の一角に自身の作品の展示を行いました。
1992年に長谷川町子が亡くなった後、長谷川美術館から長谷川町子美術館と改名され、現在ではすっかり長谷川町子作品が中心となっています。
美術館の外観は折り紙をイメージして作られています。折り紙作品を建物にすると、結構シャープな形になりますね。
こちらは、サザエさん通りから向かってきた時に見える美術館の裏側の様子です。
外壁の赤レンガが暖かみのある街の雰囲気を作っています。長谷川町子は、外壁をレンガにしたいという思いがあり、自身でレンガを探して外壁に使用しています。
レンガの表面を荒く削り凹凸に積んでいるため、周りの自然と溶け込むような外壁になっています。ロッククライミングが出来そうな壁ですが、登ってはいけません。
内観は撮影禁止なので写真はありませんが、説明しますと展示室1・2は長谷川姉妹がコレクションした美術品の展示、アニメの部屋はサザエさんコーナーとなっています。
アニメの部屋では磯野家の間取りの模型があり、アニメではなかなか分からない部屋の位置関係が、展示されている模型によってよく分かります。
磯野家は平屋建てで4DKの間取りとなり、どんな生活をしているかにもよりますが、7人家族であればちょうど良い広さなのかなと思います。
壁から屋根にかけてスリットが入っており、このスリットから内部へ自然光を取り入れています。また、美術館2階の中央部は吹き抜けになっており、自然な光が入る明るく広々とした空間になっています。
長谷川町子記念館
記念館は、長谷川町子生誕100年を記念して、2020年に美術館分館としてオープンしました。
美術館だけではスペース的に全ての作品を展示仕切れず、また、美術館の道路を挟んで向かい側の土地が入手出来たこともあり、記念館の建設が実現しました。
美術館から見た記念館の様子です。美術館と呼応するように、建物の形や入口の位置、アプローチ(敷地入口~建物入口)が設計されています。
この記念館の設計・施工は伊佐ホームズ。普段は世田谷区を拠点に木造住宅を作っている会社です。前述でも述べた通り、伊佐ホームズを経営する伊佐家は、サザエさんに出てくる伊佐坂先生の名前のモデルになっています。
コンセプトは家としての美術館
。長谷川美術館とのつながり、緑豊かな周辺環境とのつながり、桜新町とのつながりと、3つのつながりを意識して記念館は作られました。地元の方たちが、気軽にふらっと立ち寄れるような場所を作りたいという思いも込められています。
美術館のアプローチと、記念館のアプローチは直線上になるように作られており、上空からマップで見ると、美術館の一部の壁線が、博物館の一部の壁線と一直線上になっています。
既存の美術館とのつながりが、外観やマップから見ても意識されているのがよく分かります。
入口前には、長谷川町子、サザエさん、いじわるばあさんがおしゃべりしています。
外壁にはスクラッチタイル(爪で引っ掻いたようなタイル)が使われており、美術館のレンガと馴染む素材を使っています。
入口の壁には、長谷川町子が好んでいた桜の木が使われています。桜の木のテクスチャ(表面の質感)が、記念館外壁のスクラッチタイルや、美術館のレンガと相まって、かなり馴染んでいます。
1階の常設展示室「町子の作品」では、磯野家の六畳の居間を再現した空間や、お絵かきコーナー、絵本コーナーなどがあります。2階の常設展示室「町子の生涯」では、原画や写真などが展示されています。
1階の常設展示室へ向かう途中に、磯野家の家系図があります。これはなかなか興味深いですね。
1階の常設展示室の入口には、サザエさんを始め、いじわるばあさんなどのパネルが並ぶ、楽しげな空間となっています。
こちらは、1階の常設展示室の絵本コーナーと、後ろにはデジタル技術を使用したお絵かきコーナー。
こちらは1階の常設展示室にある、磯野家の居間を再現したコーナー。真壁の白漆喰や、青と白のふすま、ガラスのある障子など、六畳間の空間に昭和初期の雰囲気が漂います。
また、ちゃぶ台や食器棚、ブラウン管テレビなどの家具も、昭和の暮らしを思い起こさせる空間になっています。
こちらは喫茶部。丸柱の周りに設置された本棚が特徴的であり、窓からは自然光がふんだんに入る明るいカフェになっています。家具には、木目の白い耐久性のあるオーク材が使われています。
展示を見た後は、ここで絵本を読んだり、外の庭を眺めながらゆっくりとティータイムを取ることが出来ます。
サザエさん公園
美術館、記念館のすぐ近くにはサザエさん公園があり、帰りに立ち寄ってみるのもオススメです。
ここにもサザエさんの家族の銅像がありました。桜新町にはこのような銅像がそこかしこにあるのですね。
灯篭や岩など、日本庭園のような造りになっています。
通路にはこのようなサザエさんのキャラクターが描かれたタイルが埋め込まれています。サザエさんの他にも、磯野家のメンバーのタイルがありました。
日本で長年放送された長寿アニメ「サザエさん」は、多くの日本国民に親しまれています。是非、桜新町にてサザエさんの世界観に浸ってみては。
建築概要
長谷川町子美術館
設計 | 鹿島建設 |
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施工 | 鹿島建設 |
建築面積 | 227.91㎡ |
延床面積 | 479.44㎡ |
階数 | 地上2階 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 |
竣工 | 1985年 |
長谷川町子記念館
設計 | 建築:伊佐ホームズ 展示:丹青社 カフェ・ショップ:EAST |
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施工 | 建築:伊佐ホームズ、白石建設 展示:丹青社 カフェ・ショップ:EAST |
延床面積 | 1,270.29㎡ |
階数 | 地上2階、地下1階 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 |
竣工 | 2020年 |
ご利用案内・アクセス
開館時間 | 10:00~17:30(入館は16:30まで) |
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休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌日)、展示替期間、年末年始 |
入館料 ※右記の料金で 美術館と記念館が 両方入館できます | 一般 :900円(800円) 65歳以上 :800円(700円) 高・大学生:500円(400円) 中・小学生:400円(300円) ※()内は団体料金(20名以上)および 障がい者手帳をお持ちの方とその介護者 |
電話 | 03-3701-8766 |
住所 | 東京都世田谷区桜新町1-30-6 |
アクセス | 東急田園都市線 桜新町駅 徒歩7分 東急バス 桜新町1丁目 徒歩1分 |
※2021年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。
参考元:
・長谷川町子美術館 公式サイト
・【東京・桜新町】サザエさんの町を彩る新名所 〈長谷川町子記念館〉。|甲斐みのりの建築半日散歩 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS
・長谷川町子美術館ガイド | My soft 21
・長谷川町子美術館【鹿島建設|東京都世田谷区】: Tadaoh! Design
・当社が設計施工を手がけた「長谷川町子記念館」がオープンしました | お知らせ | 伊佐ホームズ
・長谷川町子記念館新築工事|白石建設株式会社