東急東横線日吉駅周辺の商業・住宅街の中心部から人里離れた自然の多い場所に「日吉の森 庭園美術館」があり、築150年を超える民家を記念館とした田邊泰孝記念館、四季折々の樹木や草花が豊富な日吉の森庭園、植物をモチーフにした独特な彫刻が展示されている田辺光彰美術館があります。
記念館の名前となっている田邊泰孝氏は、日吉の発展に深くかかわり多くの要職を歴任してきた人物。田辺光彰氏は彫刻家であり、田邊泰孝氏の長女の旦那様となります。日吉の森庭園の中にも、田辺光彰氏の作品が要所に置かれています。
田邊氏は、都市化が進む中でも自然環境が存続するよう日吉の森文化財団を2011年に設立し、現在の地の自然を守ってきました。
今回はそんな貴重な民家と自然がある日吉の森 庭園美術館を紹介します。
日吉の森庭園
美術館内にて受付を済ますと、まず最初に日吉の森庭園の散策から始まります。この庭園は、田邊泰孝記念館を取り囲んで回遊する形の散策路となっています。
経路には石畳が並べられ、途中には竹林もあり、情緒あふれる自然風景が広がります。様々な樹木や草花があり、季節ごとに風景が変わります。
経路途中にあるお稲荷さんです。
庭園内には所々に田辺光彰氏作品の彫刻が置かれています。これはWILD BANANAというステンレスで作られた作品であり、絶滅危惧種のバナナです。
こちらはMOMI(籾)という作品です。
各箇所に樹木などの植物の説明があり、学びながら散策を楽しめられます。
こちらは見晴台。田邊家の方はここからの庭園の眺めがお気に入りだったそうです。現在は草木が生い茂っており、あまり見晴らせませんが。。
10~20分ほどで、田邊泰孝記念館の前庭に到着します。芝生の風景が広がる開けた場所となっており、散策路から来ると開放感があります。
記念館の手前には池があり、灯籠や橋などが設置され、松などの樹木が趣のある日本庭園を作り出しています。池は自然の湧水を利用しており、池の中には大きな錦鯉が泳いでいます。
この池をはじめ、庭園内には約10トンもの庭石が使われています。
記念館のすぐ近くには土蔵があり、植木の中に佇んでいます。この土蔵は、実に築300年を超えます。
土蔵の入口部分です。入口のすぐ近くにも田辺光彰氏の作品が置かれており、これは豆・無限という作品であり、種(豆=種)は大きな力を持つことと、横にするとメビウスの輪になるため、この作品名が付けられました。
田邊泰孝記念館
田邊家は江戸時代から歴史があるのですが、関ヶ原の戦いに勝った徳川家康は江戸幕府を開く際、田邊家初代である大炊助に、現在の地に定住させて管理を任せました。田邊泰孝氏は現在の地の12代目にあたります。
田邊家がある日吉は昔、農村地帯だったため緑豊かな土地でしたが、近年、都市圏人口の増加に伴い日吉周辺の都市化が進み、開発が行われたことで多くの緑地や文化が失われてしまいました。そんな中でも田邊家は、現在も旧家(記念館)や周辺の自然が守られています。
田邊泰孝記念館はその旧屋の建物を記念館としており、築150年を超えます。(2021年時点)
屋根は寄棟造りであり、茅葺の上に銅板を張っています。また、規模の大きい家なので、大黒柱を3本立てて屋根を支えています。
こちらが記念館の入口。一見、左側の扉がメインの入口のように見えるのですが、手前に植木鉢が置かれています。記念館には右側の扉から入ります。
記念館を入ると土間となっており、土間を上がると畳敷きの部屋があります。
この家について、記念館を管理している方が丁寧に説明してくれました。
家の中にある調度品は、目を惹かれるものが多く置かれています。右側は、高さ約50cmになるスズメバチの巣。左側のタンスは、下に滑車が付いており、家事が起こった際にはすぐに運べるようになっています。
天井には立派な梁が見えます。使用した木材は全て、すぐ近くで育った檜を伐採したものとなっています。檜は、大きくなったら木材として切り出して乾燥させ、近所で必要となったら分け与えていたそうです。
天井裏を見ると、もともと茅葺き屋根だった面影が残っています。この屋根に使う茅は、稲が育ったらそれを刈って使っていたため、材料費がかかりません。しかしながら、茅葺きだと火事になりやすいことと、葺き替え作業が大変なため、茅葺き屋根の住宅が次第に減ってしまいました。
記念館の屋根は雨漏りが無いので、今でも腐らずに残っており、大変貴重なものとなっています。
アメリカの彫刻家イサム・ノグチ氏の作品「宇宙の塵」が置かれていました。田辺光彰氏はイサム・ノグチ氏に刺激を受け、交流をしていたそうです。
記念館は庄屋造りと呼ばれる間取り形式で、入口の土間に、居間が田の字型の間取りが特徴です。
こちらは土間側から見た居間の様子。手前の立てている木の板は、目隠しのために置かれてたそうです。板の手前には像が置かれているので、絵になります。
田邊泰孝氏は民族文化に関心を持っていたそうで、海外から多くの民族文化財を持ち帰っていました。記念館の中には数々の民族文化財が飾られています。
こちらは奥の座敷。床の間と、その右側には仏壇、左には格子によって彩られた障子があり、味わいのある意匠になっています。昔は、居間の仕切りの板戸を外して、冠婚葬祭を行っていたそうです。
こちらは、人間国宝・芹沢銈介(せりざわ けいすけ)氏の作品。港北公会堂の緞帳(どんちょう。垂れ幕)作成をする際、田邊氏は図柄を芹沢氏に依頼しました。芹沢氏の作品に魅了された田邊氏は、親戚に借金をしてまで、芹沢氏から絵を買っていたようです。
こちらは縁側。縁側を設けると直射日光が当たらず、断熱性が高まるので、室内温度が外気温に左右されにくくなります。また、庭や池を眺めてくつろげられます。
上部の窓ガラスは、その上の梁で使われている丸太の太さが場所によって変わるため、窓の大きさを都度調整していたので、やはり施工が大変だったようです。
写真では分かりにくいのですが、縁側の窓ガラスはよく見ると波を打っています。現在作られているガラスは真っ平らですが、昔は平らに作れませんでした。ですが、それが逆に今では貴重なものとなっています。
田辺光彰美術館
田辺光彰美術館は、彫刻家・田辺光彰自身の彫刻作品と、制作に大きな影響を与えた民族文化財が展示されています。
美術館の設計は竹中工務店。日本最大の美術館である東京都現代美術館を手がけていることもあって、竹中工務店に依頼したそうです。
庭園風景と記念館との調和が意識された、コンパクトな建築となっています。屋根の傾斜が敷地の傾斜と合っており、黒い外壁ともあり控えめな感じで佇んでいます。
こちらは美術館内観。床・壁・天井を黒に仕上げて、要所にライトを当てて作品を際立たせています。
田辺氏は30年にわたり「農」をテーマにして、ステンレスや石などを使った彫刻作品を制作してきました。現在は日本にない野生稲(稲の原種)などを題材にし、ステンレスなどの現代的な素材を使って、メッセージを放ち続けるという願いが込められています。
植物を題材としているため、ステンレスでありながら懐かしさや暖かみのある作品に仕上がっています。
民族文化財の作品も数多く展示されていました。田辺氏はこのような民族品や、イサム・ノグチ氏の作品などに影響を受け、独特なステンレス彫刻を作り上げています。
ちなみに、庭園美術館の外からは田邊家の立派な正門が見られます。
日吉の森 庭園美術館は、長年守られてきた自然豊かな庭園と貴重な古民家に癒やされ、特徴的な彫刻作品も楽しめられるので、おすすめの場所です。
ご利用案内・アクセス
開館時間 | 11~3月:10:00~15:00 4~10月:10:00~16:00 |
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休館日 | 休館日については公式サイトでご確認下さい。 |
入館料 | 一般 :400円(300円) 学生 :200円(100円) 未就学児童:無料 ※()内は6~9月の料金 |
電話 | 045-561-3214 |
住所 | 神奈川県横浜市港北区下田町3-10-34 |
アクセス | <電車> 東急東横線・グリーンライン 日吉駅 徒歩20分 <バス> 日吉駅から東急バス(サンヴァリエ日吉・高田町 行) 下田地蔵尊前 下車徒歩2分 |
※2021年7月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。
参考元: