上野公園の中に建つ音楽ホール「東京文化会館」は、東京都が開都500年事業として建設され、奇跡的とも言われる音響の良さを持ち、ホール音響設計の手法の基盤となっています。
日本で初めて、組織的に建築音響設計を実施したプロジェクトとの事で、その成果は世界中から評価される音響を作り出しました。何度も改修が行われたそうですが、この音響の良さは変わりません。
これまでに、世界中の名だたるアーティストの公演が行われてきました。
設計は前川國男氏であり、同じ上野公園にある東京都美術館も設計しています。前川國男氏の師匠であるル・コルビュジェ氏が設計した国立西洋美術館の対面に建っています。
東京文化会館は、戦後を代表するモダニズム建築(機能性、合理性にもとづいた建築)になります。
今回はそんな東京文化会館の建築デザインや、奇跡的な音響を生み出す建築の特徴を紹介します。
周りと一体になった外観
東京文化会館は、反り上がる大きな曲面の庇が特徴であり、庇の下にエントランスがあります。
前川國男氏は周りと一体になった建築を目指した建築家です。自然に利用できる建築を目指し、東京文化会館についてもそれを実現しています。
国立西洋美術館の側から見た、東京文化会館です。上野公園の雰囲気と一体となり、自然に入れる建築となっています。
東京文化会館には大ホールと小ホールがありますが、上の画像は大ホールの舞台の外側です。
大ホールのステージは可動式で、コンサート用舞台と、オペラ・バレエ用舞台のステージがまるごと入れ替わるため、大きなスペースが必要になります。そのため、このような巨大なボリュームが出来る訳です。
音楽ホールの他にも、このようなオープンテラスのカフェがあります。オープンカフェからは、特徴的な庇が間近に観賞出来ます。
ロビーとホワイエの魅力的なデザイン
出入口を入ると、チケット売り場などがあるロビーとなります。ロビーは天井が高く、開放的な空間となっています。
ネイビーブルーに電灯がちりばめられ、まるで夜空のような天井です。窓も高さがあり、夜空のような天井でありながら明るさのある内観です。
黄金の装飾が施された壁はチケット売り場の上部であり、星空のような天井と相まって、とてもゴージャスな雰囲気です。
ロビーから更に進み、天井の低い会場入口を抜けると、高く吹き抜けたホワイエになります。
ホワイエに入ると、このような立ちはだかっている壁面があります。これは大ホールの外壁であり、その大きさにはインパクトを与えられます。
ちなみに小ホールは、大ホールの脇を通って入って行きます。
壁面は結構な大きさがありますが、これは氷山の一角。もう一度、大ホールの外側の画像を見てみましょう。
画像右側の東京文化会館と見比べてもらうと、相当な大きさであることが分かります。
ホワイエ部分は、10.8m間隔の正方形グリッド上に規則的に柱と梁が配置された、鉄骨鉄筋コンクリートのラーメン構造となっています。
天井の電灯装飾が、ロビーからホワイエにかけてずっと続いてるので、より星空感があります。
音響を響かせるホールの特徴
大ホールはコンサート・オペラ・バレエなどが行われ、小ホールは室内楽・リサイタルなどが行われるわけですが、どちらも奇跡的な音響である評価を受けています。
大ホール
まずは大ホールの入口です。
引用:2.上野公園の建築( RENEWAL) – 近代建築の楽しみ
入口は一面サーモンピンクであり、高揚感を倍増させる効果があります。
大ホールは5階建てであり、客席数は2303席ある、高さ最大17mの大ホールとなっています。
大ホールの横壁には雲型のパーツがくっついており、とても特徴的な形をしているので目を引きます。ブナ材で作られたこの雲型のパーツは、彫刻家・向井良吉氏の作品であり、音響拡散材として設置されています。
機能的であり、かつ面白いデザインですね。
青緑黄色のシートが点在する客席がありますが、これはお花畑をイメージしています。
また、空席が目立たないという効果もあります。新国立競技場にも同様の手法が使われてますね。
大ホールの屋根は六角形となり、最大40mものスパン(間隔)をもっています。
引用:構造デザインマップ東京 © 構造デザインマップ編集委員会
屋根の部材は、上下弦材のトラス梁(三角形に組まれた梁)がかけられており、下に膨らんだ放射線形状の骨組になっています。この下に膨らんだ屋根の形状によって上手く音を反響させ、音響を良くしています。
ステージは可動式で、コンサート用舞台とオペラ・バレエ用舞台の入れ替えがまるごと出来るので、かなりのボリュームになります。
模型の断面で見ると、大ホールの大きさがよく分かります。
引用:『一眼レフで捉えた夜のバレエ観劇会場の東京文化会館』上野・御徒町(東京)の旅行記・ブログ by まみさん【フォートラベル】 © forTravel, Inc.
小ホール
小ホールの客席数は649席であり、リサイタルなどが行われます。
引用:東京文化会館 公式サイト © 2019 Tokyo Bunka Kaikan
小ホールの壁も目を引く特徴的な壁であり、音を響かせるためのパーツとなります。これは、彫刻家・流政之の作品です。
この自然の姿に近い見た目が、より心地よく音楽を鑑賞することが出来ます。
ステージには、昇り屏風と呼ばれる音響反射板が設置されており、かなり目立っています。
コンクリートの壁や昇り屏風の芸術的なデザインが、素晴らしい音響を生み出します。
引用:構造デザインマップ東京 © 構造デザインマップ編集委員会
小ホールの天井の骨組みも、大ホールと同じく、下弦材がかけられ、下に膨らんだ形状になっています。小ホールの方は四角形に組まれていますが。
大小ホールの天井の形状を保たせながら、ホワイエと繋いでいるこの建物は、終局強度に基づいた構造となっています。終局強度とは、力を加え、崩壊または変形する時の部材の強度を言います。絶妙なバランスを保ちながら、この建物は造られています。
奇跡的な音響の良さで、音楽ファンから絶大な支持を得ており、今や世界に知れ渡る音楽ホールとなりました。音響について考え尽くされたこのホールで聴く音楽は格別です。
建築概要
設計 | 建築:前川國男建築設計事務所 構造:横山建築設計事務所 音響:永田音響 |
---|---|
施工 | 清水建設 |
敷地面積 | 10,370㎡ |
建築面積 | 7,545㎡ |
延床面積 | 22,568㎡ |
構造 | 鉄筋コンクリート造、鉄骨造(屋根) |
階段 | 地上4階、地下2階 |
工期 | 1959年1月~1961年3月 |
アクセス
電話 | お問い合わせ:03-3828-2111 チケットサービス:03-5685-0650 |
---|---|
住所 | 東京都台東区上野公園5-45 |
アクセス | JR線 上野駅 公園口改札から徒歩1分 東京メトロ 上野駅 7番出口から徒歩5分 京成電鉄 京成上野駅 正面口から徒歩7分 |
参考元:
・東京文化会館 公式サイト
・構造デザインマップ編集委員会「構造デザインマップ東京」,総合資格学院,2014年6月20日,96P
・2.上野公園の建築( RENEWAL) – 近代建築の楽しみ
・『一眼レフで捉えた夜のバレエ観劇会場の東京文化会館』上野・御徒町(東京)の旅行記・ブログ by まみさん【フォートラベル】