上野公園にある、多くの重要文化財が展示された「東京国立博物館」。その中の「法隆寺宝物館」は、飛鳥時代から奈良時代にかけて作られた仏像や絵画など、貴重な宝物が約300件、収蔵・展示されています。
この法隆寺宝物館は、博物館内にある他の建物と違い、装飾がなくシンプルでシャープなデザインが特徴の建物となっています。
設計は谷口吉生氏。葛西臨海水族園やGINZA SIX、数多くの美術館を手がけています。また、父親は谷口吉郎氏であり、同博物館内にある東洋館を設計しています。
谷口吉生氏は法隆寺宝物館の設計において、現在の東京には貴重となった静寂、秩序、品格のある環境を作ることを目的としていました。
現在の宝物館が建てられる前は、旧宝物館では展示品の保存機能上、公開は1日に限られていましたが、1999年に保存機能を高めた新宝物館が建てられてからは、週に6日公開出来るようになったそうです。
今回はそんな東京国立博物館 法隆寺宝物館の建築を紹介します。
静寂で綺麗な外観
博物館の入口から左に曲がり、表慶館の左脇を抜けると、緑あふれる自然空間の中に法隆寺宝物館が佇んでいます。
展示室や収蔵庫などが入っている石張りの箱に、エントランスやラウンジの部分にはガラス張りの空間、その周りをステンレスのフレームで取り囲んでいるのが特徴の建物となっています。
各ボリュームはそれぞれズレながら奥行きをつけた、左右非対称の建築です。
建物の手前は水面になっており、宝物館の入口までは御影石が張られたアプローチを通ります。
博物館の入口から行くと宝物館の左寄りに出るのですが、宝物館入口は真ん中より右側に寄っています。
そのため、水面の周りを歩く形になるので、静寂と癒やしを感じながら宝物館へ向かえられます。
ステンレスのフレームを支える柱が細くなっているので、水面から反射した日光が映りこみ、建物の美しさを一層引き立てています。
ガラスのカーテンウォールは縦格子のサッシュが入っており、日本の障子を思い起こさせる和を感じるデザインです。格子は天井から吊っており、下部から内部の様子が見えるので視認性があり、ためらいなく入ることができます。
入口の前は壁が建っており、そこに低い庇が乗っていて、法隆寺宝物館の文字が通路の真っ正面にあるので、目線が引きつけられます。ここが法隆寺宝物館であると言わんばかりの雰囲気です。
スッキリした内部空間
エントランスはガラス張りのため明るく、天井が高いので開放感があります。ガラスは縦格子のサッシュがあるので、ちょうどよい程の光が差し込みます。
写真右にある展示室・収蔵庫の石張りの壁は、ドイツ産のライムストーンが使われています。ジュラ紀の地層から採掘される石灰石になり、1億年以上前に出来た石から生成しています。
床や壁の石版や、ガラスカーテンウォールの柱など、全て目地を揃えて作られており、綺麗で清潔感のある空間となっています。床の石版はピッチリ張られており、目地がほとんど目立っていません。壁の石版の目地も、床板2枚ごとに壁板3枚の間隔で揃えられていたり、ガラスカーテンウォールの柱は床板4枚ごとに建てています。
天窓も設けられていて、光をふんだんに取り入れるようになっています。
天窓のところに見える鉄骨の梁も壁板の目地に合わせていたり、天井パネルも鉄骨の柱・梁に合わせていたりするので、このようにシャープで綺麗な空間が出来上がっているのです。
同東京国立博物館の本館や表慶館のように、壮麗な装飾を施すのも確かに大変な作業なのですが、逆に法隆寺宝物館のように完全にシンプルなデザインにするのも、少しも狂わせることが出来ないため大変な作業となります。
建物中央の展示室・収蔵庫は鉄筋コンクリート造となりますが、これを中心に地震力を負担することによって、エントランスの鉄骨柱やステンレスフレームを支える外部の丸柱は、屋根を支える役割さえ果たせばよいので細くすることができ、よりシャープなデザインを実現しています。
3階から、2階の資料室を見下ろした様子です。資料室および階段は木質性の床となっており、光がふんだんに差し込みます。
緊張感のあるシャープな建築ではありますが、床板やライムストーンの色によって冷たくなり過ぎず、絶妙なバランスのある空間が出来上がっています。
こちらは階段室の吹き抜けとなり、ここも上部から光りを取り入れています。
中央には金銅灌頂幡(こんどうかんじょうばん)のレプリカが飾られており、どの角度からも鑑賞することが出来るようになっています。
こちらは展示室です。室内の照明の照度を落とし、各展示品にスポットライトが当てられ、鑑賞に集中出来るようになっています。
展示品は貴重性が高く、それぞれガラスケースに厳重に守られ、展示什器個体に免震装置が付けられています。
展示室内もまた、エントランスやラウンジとは違った緊張感のある空間です。
収蔵庫や展示室には、展示品を保管するために閉鎖的に作る必要があった反面、エントランスやラウンジには開放性が求められていたため、建物中心を鉄筋コンクリート造の石張りの箱、周囲を鉄骨造のガラス張りで作ったことにより、それぞれの機能を満たした建築となりました。
2001年には建築学会賞を受賞し、機能面やデザイン面で認められた建築です。東京国立博物館の敷地の奥にある法隆寺宝物館ですが、博物館内にある他の建物とは違った雰囲気を感じる事が出来るため、是非とも足を運んでいただければと思います。
別記事で、東京国立博物館の法隆寺宝物館以外も紹介していますので、是非こちらもご覧下さい。
建築概要
設計 | 谷口吉生 |
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施工 | 大林組 |
建築面積 | 1,934.50㎡ |
延床面積 | 4,030.55㎡ |
高さ | 19.95m |
階数 | 地上4階、地下1階 |
構造 | 鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造 |
工期 | 1994年〜1999年 |
ご利用案内・アクセス
開館時間 | 9:30~17:00(入館は16:30まで) |
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無料観覧日 | 国際博物館の日(5月18日)※月曜の場合は翌日 敬老の日(9月第3月曜日) 文化の日(11月3日) |
休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌平日に休館)、年末年始 その他休館あり。詳細は公式サイトをご覧下さい。 |
入館料 | 大人 :1,000円 大学生 :500円 高学生以下:無料 ※特別展の場合は別料金となります。詳細は公式サイトをご覧下さい。 |
電話 | 利用案内や展示・催し物に関するお問い合わせ:050-5541-8600 その他のお問い合わせ:03-3822-1111 |
住所 | 東京都台東区上野公園13-9 |
アクセス | JR線 上野駅 公園口より徒歩10分 JR線 鶯谷駅 南口より徒歩10分 東京メトロ銀座線・日比谷線 上野駅 徒歩15分 東京メトロ千代田線 根津駅 徒歩15分 京成電鉄 京成上野駅 徒歩15分 |
※2021年4月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。
参考元:
・東京国立博物館 – トーハク
・法隆寺宝物館 | 日本の建築【世界建築巡り】
・上野・東京国立博物館「法隆寺宝物館」で法隆寺の至宝に会おう! | 東京都 | LINEトラベルjp 旅行ガイド
・法隆寺宝物館-作品と向き合う静寂の空間-│ARCHI-GRAPHY
・activities — 東京国立博物館 法隆寺宝物館
・新建築オンライン
・構造デザインマップ編集委員会「構造デザインマップ東京」,総合資格学院,2014年6月20日,93P