東京ミッドタウン内のミッドタウン・ガーデン内にある低層の三角屋根が特徴のギャラリー「21_21 DESIGN SIGHT」があり、外観は周辺環境を大切にするため控えめですが、それとは裏腹に内観は開放感のある空間が広がる建築となっています。
21_21 DESIGN SIGHTの読み方は「トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト」。「優れた視点」を英語で「20/20 Vision(Sight)」と表すそうですが、さらにその先を見通す場を作るという思いから、名称に21_21が入っています。そして、この施設の電話番号下4桁も2121になっています。
設計は安藤忠雄氏。渋谷駅、表参道ヒルズ、光の教会などを手がけ、世界的にも活躍する建築家です。
今回はそんな21_21 DESIGN SIGHTの建築を紹介します。
外観
敷地は、東京ミッドタウンの公開空地(建築基準法で定められたオープンスペースで、オフィスの敷地の中で一般に開放された区域)に囲まれた緑の多い環境です。広場に来た人々が自然に入れるようにという事でこの敷地に建っています。また、敷地の景観を壊さないよう床面積の8割が地下に埋設されています。背後にヒマラヤ杉が並んでいますが、それに包まれてたたずむ建築が計画されました。
上画像の右手前側の部分はショップ、ギャラリー1、ギャラリー2があり、左奥側の部分はギャラリー3があります。
三角形の地面に向かって傾斜した鉄板屋根が特徴の外観ですが、これは一枚の布をイメージしてデザインされています。長さ54mあり、巨大な一枚の板として構造材かつ仕上げ材としての役割を担っています。
これだけの巨大な鉄板ですから、工事にはかなり高度な技術を用いています。屋根の重さによる施工時の変形や、溶接による歪みなどが懸念されたため、変形量を解析したり、モックアップ(実物大の模型)を製作して施工方法や順序をつめていくなど、様々な技術が活用されました。
完成後においても、真夏時の鉄板の熱膨張で約30mmもの変形が生じるため、壁柱と屋根の接続箇所にはゴム支承を設けて柔軟性をもたせ、屋根の変形による応力を壁柱に極力与えないようにしています。地震に対しては、建物ほぼ中央2ヶ所にはゴムではなく完全に拘束して、屋根の揺れを下部構造に伝えさせています。
入口のすぐ近くには、このような青いプレートがあります。住所表示板のようなデザインにしており、ここの施設がデザインの場であることを示しています。また、21と21の間は人間の目の幅を表しており、ものごとを真摯に見つめることの重要性も示しています。
安藤忠雄建築は鉄筋コンクリート打ちっ放しが特徴ですが、コンクリートを充填するために用いられる型枠は900×1800mmの型枠用合板が使われています。型枠の中にコンクリートを流し込むと外に押し出そうとする力が生じるため、セパレータと呼ばれる壁の厚さに立てた型枠が動かないようにするパーツが用いられます。コンクリート壁でよく見られる丸い穴は、そのセパレータの跡になります。
コンクリート壁には、横にした1枚の型枠用合板に6つのセパレータを使った跡があり、穴の間隔は横600×縦450mmになっています。階段など建物のいたる所の部位が穴の間隔に合わせて450、600mmの約数や倍数の寸法で設計されています。
内観
フロア構成は、地上1階にギャラリー3とショップ、地下1階にギャラリー1、2があり、地下へのギャラリーはショップの横を通って階段で降りる形になります。
階段の横には水平大ガラスがあり、高さ45cm×長さ約11.5mのガラスが2枚並んでいます。竣工当時は日本一の長さであったようです。
階段に沿って斜めに下る腰壁(途中の高さまで作られた壁)は、900×1800mmの型枠用合板を斜めに割った1/2の勾配となっています。
階段で降りていくと、目の前には大きなガラス張りにサンクンコート(屋根がない地下広場)が見えます。三角形の角部分も見えて、広々としたシャープな空間になっています。
コンクリート壁に付いている手すりは階段昇降時に身体を支えますが、ガラスの手すりは落下防止のために設けられており、それぞれ目的が違うため手すりの高さが異なります。
階段の手すりをガラス張りにして縦の枠を少なくすることで、より広々と感じる空間になっています。
階段に注目すると、寸法をセパレータ穴の間隔に合わせているのが分かります。穴の横間隔600mmを2で割って、踏面(ふみづら。1段の奥行。)を300mmにし、穴の縦間隔450mmを3で割って、蹴上(けあげ。段差のこと。)を150mmで作っており、割と緩やかな角度です。
施設の中にはこのようなドアハンドルがいくつかあります。安藤忠雄建築では多く採用されており、メーカーである株式会社ユニオン社内でデザインされましたが、安藤型と呼ばれているそうです。
サンクンコートのガラス張りは、重い鉄板の屋根からの荷重と、ガラスにかかる横からの風圧力に耐えるため、方立(ほうだて。縦枠のこと。)を横枠で一体化させています。最大約11.7mにもなり、なるべく視界を遮らないように方立には繋ぎ目のない235×69mm断面の鋼材が用いられています。その甲斐あってか、地下1階から東京ミッドタウンタワーがよく見えます。
サンクンコートには上からの光が降り注ぎ、地下空間に光りを届けています。
こちらはギャラリー1。私が訪れた時はルール展が開催されていました。目の前に巨大な展示物があって分かりづらいですが、それなりに広さがあります。
施設内にはこのような細く暗い通路もあり、そこにインスタレーション(音や光による展示)が施されたりしています。
特徴的な屋根の外観と、広々とした内部空間をもつ21_21 DESIGN SIGHT。展示鑑賞に訪れた際には、建築の魅力にも触れてみてはいかがでしょう。
建築概要
設計 | 安藤忠雄建築研究所、日建設計 |
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施工 | 竹中工務店、大成建設 |
敷地面積 | 2,653.3㎡ |
建築面積 | 597.3㎡ |
延床面積 | 1,932㎡ |
階数 | 地上1階、地下1階 |
構造 | 鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造 |
竣工 | 2007年 |
ご利用案内・アクセス
開館時間 | 平日 11:00 – 17:00(入場は16:30まで) 土日祝 11:00 – 18:00(入場は17:30まで) |
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休館日 | 毎週火曜日、年末年始、展示替え期間 |
入館料 | 一般 :1,200円(1,000円) 大学生 :800円(600円) 高学生 :500円(300円) 中学生以下:無料 ※()内は団体料金(15名以上) |
電話 | 03-3475-2121 |
住所 | 東京都港区赤坂9-7-6 |
アクセス | 都営大江戸線 六本木駅 徒歩5分 東京メトロ日比谷線 六本木駅 徒歩5分 東京メトロ千代田線 乃木坂駅 徒歩5分 |
※2021年9月現在の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認下さい。
参考元:
・21_21 DESIGN SIGHT
・構造デザインマップ編集委員会「構造デザインマップ東京」,総合資格学院,2014年6月20日,66P